大江戸の侠児 ★★★

大江戸の侠児
1960 スコープサイズ 86分
BS2録画
原作■山上伊太郎 脚本■加藤泰
撮影■鷲尾元也 照明■岡田耕二
美術■川島泰三 音楽■高橋 半
監督■加藤 泰


 なんだかかなり捻くれた物語だが、さすがに粘り腰の演出でこってりと見せる加藤泰の初期作品。

 昔の恋人おたか(香川京子)をかどわかしにさらわれ、弟を大名の家来の乗る馬に轢き殺された次郎吉(大川橋蔵)はやがて鼠小僧となり、仲間の助力を得ておたかを探し出そうとする・・・ 

 香川京子が田舎娘で女郎に売られるおたかと、橋蔵のやさぐれた生き方を諭す大名屋敷の中臈の二役を演じるが、それほど大きな役ではなく、むしろ橋蔵を挟んで恋敵となる勝気な文字春(青山京子)の生き方と存在感に加藤泰の心意気が表れているように思える。青山京子も実に巧演で、橋蔵の相方権(ごん)を嬉々として演じる多々良純のこれまた快演とともに、この映画の魅力のほとんどを担っているといっても過言ではない。

 それにしても、加藤泰の映画は、というべきか、東映時代劇は、というべきか、数多く登場する脇役たちがシネスコの画面の各所で立ち騒ぎ、発散する雑然とした動作や台詞が発散する人間臭さや生活感の層の厚さが独特で、主役たちの演技を包み込んで、時代劇の世界と空間をまるごと造形するという姿勢が顕著に感じられる。

 特によくできた物語ではないが、加藤泰の孤高の演出術が冴え渡った良作である。後半の見せ場となる女郎屋のセットの生かし方も脇役陣の演技ともども素晴らしく、1階から2階までを軽く1カットのパンで見せたり、余裕の演出ぶりが堪能できる。後の作品ではそのスタイルが息苦しくもなる加藤泰だが、ここでは足取りも手ぶりもじつに軽快で清々しい。

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