『沓掛時次郎・遊侠一匹』

基本情報

沓掛時次郎・遊侠一匹
1966/スコープサイズ
(2001/9/6 BS2録画)
原作/長谷川伸 脚本/鈴木尚之掛札昌裕
撮影/古谷 伸 照明/中山治雄
美術/井川徳道 音楽/斉藤一
監督/加藤 泰

感想(旧HPより転載)

 言わずとしれた国民的人気戯曲の何度目かの映画化で、おそらく決定版と呼んでも過言ではない古典的傑作。

 しかし、十数年前にTV放送で見た印象と多少異なっているのはこちらの目が肥えたということなのか、初見の新鮮さよりも客観的な視点が優位に立ってしまうためのものなのか、判断に苦しむ部分もあるのだが、ヤクザ社会の酷薄さに嫌気がさしている主人公の心情を強く観客の心に刻みつけるという役割は分からないでもないが、導入の渥美清のエピソードがやはり浮き上がって見えるし、薄幸の人妻池内淳子に決定的に色気が欠如していることにはっきり気づいてしまう。

 加藤泰の超絶した映画造形力と友人の話にかこつけながら自分の身の上話を切々と吐露する長廻しのシーン等に見られる部分的に卓越した脚本の語り口のおかげで案外騙されてしまうのだが、池内淳子の存在の軽さが実はこの映画の弱点となっているのではないかと思い至った次第だ。

 それに本心を言えば、音楽の担当が斉藤一郎ではなく、長谷川伸原作の股旅物ならこちらの方が様々な部分で優れていると個人的には確信する傑作「瞼の母」の木下忠司であったならと惜しまれてならないのだが。

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