赤川次郎のホラーはなかなか侮れない『怪奇博物館』

赤川次郎はときどき純粋な怪奇小説を書いていて、実はいくつか傑作があります。本書は半分が怪奇ミステリーで、半分が純粋怪奇小説です。怪奇ミステリーの方は正直噴飯ものだったりしますが、怪奇小説は意外と良いのがあります。

■「吸血鬼の静かな眠り」は傑作です。赤川次郎の秀作は、家族同士で殺し合ったり、憎みあったりするものが少なくないのですが、本作のその系譜です。古典的な吸血鬼像も踏襲しながらけっこうモダンホラー風味になっているところが読みどころ。というか、時代的にはモダンホラーの時代ですね。吸血鬼じたいは正面から描かれず、間接描写に留めるところが良い。焼け落ちた別荘を再訪する終幕が秀逸で、余韻も深い。なんでドラマ化されなかったのか不思議。まあ、吸血鬼そのものが登場しないからかもしれないけど。傑作短編なので、いろんなアンソロジーに採られています。

■「受取人、不在につきー」も良いと思います。まあ、ファンタジーですけどね。でもちゃんとサスペンスが効いているので、これも映像化できそうだなあ。トワイライトゾーンにあってもおかしくない雰囲気。

赤川次郎はもともとシナリオライター志願で、その修業もしていたので、小説の書き方もシナリオ的で、地の描写、叙述が薄いので軽視されがちですが、サスペンスの仕掛けを生かした怪奇小説のセンスは悪くないです。長編では『白い雨』なんて忘れがたい。

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