■ダールの「南から来た男」は超有名作なので省略しますが、ブラックウッドの「まぼろしの少年」は良いですね。ブラックウッドがこんなメランコリックな作品を書くとは知りませんでした。本書ではこれが一番お気に入りです。
■ブラッドベリの「湖」の詩情はさすがに独壇場ですね。ホラーではなく、ファンタジーとか童話といったほうが適当でしょう。
■フォークナーの「エミリーに薔薇を一輪」は一般には「エミリーに薔薇を」として有名な名編だそうです。完全に南部ゴシックな筋立てで、そんなに名作なのかなあと感じるところもありますが、逆に言えば、これくらいでいいのかという感慨もあります。これくらいなら自分でも書けそうだなあという(嘘)。いわゆるコテコテのギミックに振ったわざとらしいホラーではなく、土地や風土に根ざしたリアルな環境のなかから自然と湧き上がる狂気や怪異を淡々と描く。それでいいらしいのだ。そもそもフォークナーが怪奇小説書いたるで!と意気込んだわけではなかろうから。
■エリザベス・ボウエンという人の『悪魔の恋人』はあまり知られていない短編らしいけど、これはなかなかの良作で、空襲に痛めつけられたロンドンという舞台設定が効いている。ラストの展開もどう解釈するのか。曖昧なまま終わるけど、心理描写も素直で、読みやすいし、米国怪奇小説よりも、若干湿っているところが英国怪談でしょうね。ある意味、馴染みやすい。
■「隣の男の子」はいかにもアメリカンなラノベ風の書きっぷりで、お話自体はヘンリー・スレッサーとかロバート・ブロックの系譜。そのまんまヒッチコック劇場でやってそうなお話です。まあ、ホラーじゃないよね?