戯曲レビュー:浜辺の民宿を舞台に展開する壮大な海洋SF『海繭の仔』

■以下の戯曲アーカイブを探っていて発見した戯曲です。岡山大学の歯科博士の河合穂高の作で、第6回せんだい短編戯曲賞最終候補になった作品。でも、中身は立派なSFなので、本来ならSF短編小説として書くのが普通だと思うところ、あえて戯曲にしたところが捻くれている。
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■特殊な発光器官をそなえる謎の生物クジラモドキが深海に生息する世界。その胎児は人間の姿に似ているという。5年前に、クジラモドキと海繭が浜辺に漂着し、海で起こった発光現象で多数の人間が集団自殺を図る事件があった海辺の町。そして今。そのときに双子の姉を亡くした妹が、クジラモドキ研究所で起こっている異変に巻きこまれ、5年前に起こった姉の自殺事件の真相を知る。そしてその真相が、母子関係を大きく揺さぶる。海繭とは何か?クジラモドキと人間の関係は?

■戯曲を読むと、この壮大な海洋SFをなぜあえて戯曲にしたのかがよくわかる。作者は、かなり芝居心のある人らしい。クライマックスの母子の葛藤や、さいごに登場するマッドサイエンティスト(?)のエグい要求まで、演技の見せ場、芝居の見せ場の構築がしっかりしている。小説で書けば、クライマックスはSF的な説明になってしまったりするが、あくまでドラマや台詞に興味があるという作りなのだ。

■なにしろ、壮大なSFを浜辺の民宿だけを舞台として、数人の人間で物語るので、直接描かれない世界設定が興味をそそるところもある。人類の進化まで匂わせる、悪く言えば、とっちらかっている大風呂敷なわけだけど。そもそもクジラモドキの姿も、登場しない。その子どもは人間に似ているという、かなりファンタジーな設定だ。でもこれ、田口清隆が映像化すれば、芝居もVFXも含めて、かなりいい線のできになる確信があるけど、誰か企画しないのかな。ああ、中川和博でもいいぞ。たぶん、映像業界の人が誰が目をつけていると思うけど、まだなら、誰か教えてあげて!

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