安岡のおばちゃん、遂に死す!『カーネーション』備忘録⑤21-22週

第21週「鮮やかな態度」(演出:盆子原誠)

■昭和41年、北村は心斎橋の良い物件を買わないかと糸子に持ちかけるが、糸子は乗り気でない。一方、長女に洋装店を渡そうと思っていたのに、心斎橋で店を出すと言い出し、思い直してもう少しがんばらな、と思う糸子。そしてロンドンで流行していたミニが来るとピンときた糸子ら母子は、北村に決断を迫る。

第22週「悔いなき青春」(演出:田中健二

■昭和45年、糸子は周防の妻が亡くなったと知らされる。一方、安岡のおばちゃんは死の直前に、勘助が戦地で潰れた残酷な理由を察するのだった。三女はついにロンドンへ旅立ち、北村から誘われた東京進出の誘いを断った昭和49年。時代の変遷を感じながらもだんじり祭りのさなかに、北村をヘタレは泣いとれと一蹴し、血縁、地縁の人々を宝と感じて、生きてゆくことを誓う糸子だった。

雑感

■「悔いなき青春」でついに安岡のおばちゃんが没する。実の母親がお嬢さん育ちで頼りないから、いつも困ったことがあると頼っていた安岡のおばちゃん。兵役で深刻なダメージをおった勘助にガサツに接してしまったために、絶縁してしまった安岡のおばちゃん。実のおかあちゃんより、深いところで心を通わせ、戦わせたかも知れない、近所のおばちゃん。糸子だけでなく、奈津の心の母でもあった、血縁より濃い地縁で結ばれたその人が、ついに最期を迎える。もちろん、担当するのはメインDの田中健二だ。

■そして、おばちゃんは勘助がなぜ戦地で心に大きなダメージを受けたかを、ついに理解する。その残酷な、親にとっては残酷すぎる真相を察する。この件は、もうそっとしておくのかと思いきや、ちゃんととどめを刺す渡辺あやの胆力に、最大限の称賛を贈りたい。これは素直に、凄い作劇だ。そのまま息絶えるのかと思いきや、しれっと元気になってだんじり祭に興じ、その後、改めて鬼籍に入る安岡のおばちゃんの生き死にの実在感。その浮き沈みのリアリティも凄い。感服しました。並の作家には書けません。

■糸子の、その頼りないお母ちゃんを好演したのが元(失礼!)美人女優の麻生祐未で、でもこんなに器用な人だとは思わなかった。荒っぽい糸子のまわりで、ほぼおろおろしているだけの役なんだけど、しっかりコメディエンヌしている。

■後半の中心人物でもある北村との関係性を含め、血縁だけでない、地縁を含んで疑似家族の様相を呈しているところが、ドラマの見どころだし、実際、昔はそんな風景があったのだ。そのことを丹念に描いたところに、ドラマの骨太さと構想の巧みさがある。北村はついに糸子に想いを打ち明けることができないまま、退場しそうだなあ。やっとカーネーションの花束が登場したけど、実に壮大なドラマ構築なのだ。

■糸子の岸和田女の強靭なバイタリティと強い意志の力を称賛しながらも、渡辺あやは、そのアンチテーゼも描かなければ、バランスを欠くと考える。それは、糸子一家を描くだけではなく、岸和田の地縁共同体をまるごと描かなければ、ドラマにならないと考えたためだろう。あるいはそうしようと決めたからだろう。だから、糸子の生まれつきのがさつな強さに対する生来の弱さを勘助に託して、その人生(半生)を対比しなければ、作家としての良心が収まらなかった。みんな糸子のように強くはないからだ。

■同じように、勘助の退場後は北村が糸子一家の擬似的なおとうちゃんとして登場しながらも、結局糸子はそのことを是認しない。所詮、茶番やと断ずる。実の夫は勝だけだし、心の夫は周防だけなのだ。北村は所詮、調子の良いヘタレに過ぎない。ほっしゃん。が好演する北村という男の寂しさと弱さが胸を撃つ。

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