光州事件✖トラック野郎=『タクシー運転手 約束は海を越えて』

基本情報

택시운전사 ★★★☆
2017 スコープサイズ 137分 @DVD

感想

■1980年に起きた光州事件を取材して国外に報道した外国人記者の実話を素材とした韓国映画。軍が封鎖した光州で何が起こっているのか、それを知るためにドイツ人記者はタクシーをチャーターして軍が封鎖した光州に入るが、そこで目にしたものは、民主化を訴える市民デモ隊を虐殺し、テレビ局に火を放つ軍の暴挙だった…

■どこまでが史実に基づいたものなのかは知らないし、光州事件の真相についても特別な知識は無いのだけど、映画としては確かによくできている。娯楽映画として上出来だ。主人公はソン・ガンホ演じる金に困って家賃を滞納しているやもめのタクシー運転手で、民主化デモにも興味が無い男が、光州で起こった恐るべき軍の暴挙に対して激しい怒りに駆られてヒーローになってゆくプロセスが的確に描かれる。光州のタクシー運転手との交流と共闘には泣かされる。

■一人娘がソウルで待っているので早く帰りたいが、光州事件の実情を知ってしまった以上、光州の仲間たちを見捨てることもできない、揺れ動く心情を、さすがにソン・ガンホは巧みに演じるし、食べ物を使った演出もさすがにうまい。通りすがりの脇役のおにぎり娘の存在が泣かせる仕掛け。

■ではあるものの、その作劇の面白さはまるでトラック野郎そのままなので、やや白ける。というか、本来ならトラック野郎でこうした政治ネタを正面から扱えばよかったのにね。さすがに当時の東映もできなかったことを韓国映画は堂々と娯楽映画として臆面もなく見せ切ってしまうから羨ましい。でも、どう考えても東映映画を下敷きにした作劇のような気がするなあ。東映もこうしたタブーな政治的素材の娯楽映画化に対抗心を燃やしてほしいなあ。

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