歩いても 歩いても ★★★☆

歩いても 歩いても
2007 ヴィスタサイズ 114分
京都シネマ
原作■是枝裕和 脚本■是枝裕和
撮影■山崎裕 照明■尾下栄治
美術■磯見俊裕、三ツ松けいこ 音楽■ゴンチチ
視覚効果■松本肇
編集、監督■是枝裕和

■長男の命日に息子や娘たちが海辺の高台にある実家に集まり、どこにでもある両親と子供と孫たちの夏の一日の情景を繰り広げ、その人間関係の中にそれぞれの人間達の感情のわだかまりをスケッチして見せた良作。正直言って是枝裕和の映画とは相性が悪いのだが、これはピタリと琴線にハマった。

■なんといっても、山崎裕の撮影が絶品で、日本の夏の情景を自然な色彩で描ききったところが凄い。フィルム撮影の真骨頂といえ、デジタルビデオ撮影ではこうした自然な柔らかな色調は未だ表現できない。しかも、物語の舞台となる山の手の個人医院という民家の撮影は、映像を見ているだけではロケセットにしか見えないのだが、エンドクレジットによれば東宝スタジオでステージ撮影されたものらしい。その庭の情景の光線のリアリティは圧巻。撮影賞ものである。

■脚本の技巧的には、往年の井手俊郎松山善三といった東宝芸映画のベテランの流れを汲んでいるようにも見えるが、演出的には役者たちの自然な上手さを引き出した点に分がある。漫画的なキャラクターが多い阿部寛の力の抜けた演技は予想外にいいし、実質主役の樹木希林も、そのキャリアからいえば当然というべき力演だが、演出はベテランをよく制御している。しかし、映画の前半を牽引するのはYOUの存在感で、異色の逸材であることは誰も否定できないだろう。ただ、YOU一家のエピソードの結末のつけ方は少々安易だったと思う。

■製作はエンジンフィルムバンダイ・ビジュアル、テレビマンユニオンほか、制作はエンジンネットワーク。

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