■原案:岡部伸 脚本:池端俊策 撮影:大和谷豪、美術:青木聖和、音楽:千住明 演出:柳川強
■黒沢清の『スパイの妻』は録画したもののまだ観ていないけど、2016年に放送されたNHKの終戦スペシャルドラマをいまどき観ました。凄いタイムラグで調子が狂いますけどね。加藤剛が出てますよ!
■なんとなく戦時中の家庭劇でまったりしたお話と思い込んでいて今まで観ずに放っておいたのだが、これが意外にもガチガチの硬派な実録スパイドラマで、スウェーデンロケも敢行の大作。なにしろ脚本は大御所の池端俊策だし、NHKなので桁外れの金がかかっている。
■陸軍内で統制派に嫌われてスウェーデンの駐在武官に飛ばされた小野寺大佐(香川照之)は、現地でスパイ網を駆使して、ドイツとソ連の戦況を逐一妻小百合(薬師丸ひろ子)が作成した暗号電文で参謀本部に報告するがすべて黙殺され、ヤルタ会談でのソ連の対日参戦の密約を掴むが、本国ではソ連に米国との和平交渉を期待していたため無視される。。。
■という全部事実通りのお話を、香川照之と薬師丸ひろ子の夫婦のドラマに仕立てたところが旨味で、一方で舞台はスウェーデンロケなので、たいそうドラマと演技が煮詰まって濃くなっている。そこが見どころ。負けた戦争のことなど語りたくないと言っていた香川が、参謀本部作戦班の某参謀が戦後大企業の顧問として大きな顔をしている(史実)のに憤慨するあたりが見どころだし、戦時中の参謀本部のお偉方が勢ぞろいした座談会のメンバーが、山本龍二、佐野史郎、金田明夫、菅田俊、小倉一郎といった凄い面々でドキュメンタルな演出も非常に冴えている。
■冒頭に置かれた、以下の引用は最終的に香川照之の動機となっているし、その誘引は「スパイの妻」であった薬師丸ひろ子が促したものなのだ。意外な力作で秀作。
世の中で、なにかよいこと、あるいは、ほんとうによいと思われることをしとげた人は、みんなだれでも、じぶんの一生について、書きつづらなければならないのです。