基本情報
影の車 ★★★☆
1970 スコープサイズ 97分 @BS松竹東急
原作:松本清張 脚本:橋本忍 撮影:川又昴 照明:三浦礼 美術:重田重盛 音楽:芥川也寸志 光学技術:石川智弘 監督:野村芳太郎
感想
■郊外の住宅地で再会した同郷の男女はやがて肉体関係を持つが、男(加藤剛)には妻(小川真由美!)があったし、女(岩下志麻)には男児があった。ある日、男は眠っている間にコンロの火が消え、ガス中毒になりかけるが、それが男児の仕業に思えてくる。。。
■キレの良い短編小説を90分くらいの映画に仕立てると、ちょうどいい塩梅になるのは経験則だけど、そのお手本。短編小説なので、オチが効いているのだが、映画でも無理なく生きている。わざとらしくなく、オチのために退屈なドラマを我慢するような構成にはなっていないのはさすが。
■男女がズブズブの肉体関係に堕ちてゆくのを前半でたっぷり描き、まるでエロ映画。この時期、日活がロマンポルノに移行する直前の時期なので、明らかにエロ狙いの企画だ。その後も、積極的に情事を見せる。いったい何度絡んだか?もうとうに人妻だった岩下志麻が色っぽいにも程がある美の絶頂期で、誰も加藤剛を非難できないよね。溺れる。むしろ溺れたい。
■構成的にはちょうどミッドポイントで、男児が二人に森の中に取り残される場面があって、これが重要な場面。これを境に、男児は男を狙い始める。ガス中毒未遂事件では、あらゆる窓の外に、ほくそ笑む男児の姿が表現主義的に強調され、照明も含めて完全にホラー映画の演出であり、野村芳太郎のドヤ顔が見える気がする。はじめて女の家に泊まったとき、男児の手に握られた斧をみたとき、男は過剰に狂乱する。それには理由があって。。。
■女に溺れた挙げ句、子どもが邪魔になったんだろう?世間的にはそうとしか見えない事件だが、実はそうでもなかったのかもしれないし、男の過去がそうさせた被害妄想かもしれず、人間心理の曖昧な迷路のなかに放り出されて映画は終わるけど、ラストのツイストの部分を台詞での説明ではなく、あくまで回想映像と音楽だけで描ききったところがさすがに凄くて、なかなか真似できない芸当。脚本の構成の妙だけど、芥川也寸志の音楽も絶品。この時代に流行った甘いメロディだけど、メリハリの劇的効果が完璧で、残酷な真相の、そのニュアンスを別次元に昇華する。
■穿ち過ぎかもしれないけど、大阪万博の年、高度経済成長の絶頂にある時代、戦後の繁栄に対する違和感や罪悪感を男女の爛れた性関係に仮託して、子どもの目を通して批判するという野村芳太郎の演出姿勢には、やはり戦争の影が隠れているだろう。6歳の少年の視線には、小国民と呼ばれた戦争時代の記憶が込められているのだろう(野村芳太郎じしんは青年として立派に出征しているけど)。エディプスコンプレックスの寓話であると同時に、戦中派世代の真情が籠もっているとみたよ。意外と『東京湾』に繋がっている映画なのだ。つまり、エグい話なのだ。
