『帝銀事件 死刑囚』

基本情報

帝銀事件・死刑囚
1964/スコープサイズ
(99/7/17 V)
脚本・熊井 啓
撮影・岩佐一泉 照明・吉田協佐
美術・千葉和彦 音楽・伊福部昭
監督・熊井 啓

感想(旧ブログより転載)

 お馴染み(?)帝銀事件の実録映画だが、熊井啓の映画としても犯罪実録映画としても、完成度は今一つだ。

 ラストに平沢貞通とその娘の愁嘆場を設けて泣かせようとする、どうしようもなく通俗な手口が熊井啓の限界であり、また憎めないところでもあるのだが。

 何といっても見所は帝銀事件の真犯人を追ううちに旧日本帝国陸軍化学兵器開発に絡む暗部が浮かび上がってくる部分のスリリングな展開が圧巻だ。その推理自体はオーソドックスなものらしく、実際当時の警察は731部隊の石井四郎を嘱託として、犯人と思しき人物をリストアップさせてもいたらしいのだが、この映画でも731部隊の生き残りとして後に「日本列島」でも極めて重要な役柄を演じる佐野浅夫(!)を登場させる。

 医師であり科学者であった石井四郎ら731部隊の残党達が占領軍に研究成果を提供して戦犯の追及を逃れ、あるいは国内の医学会で重要な地位を占めてゆくのと対照的に、おそらくは生粋の軍人であったために戦犯としての責任のみを追及されるこの男の呪詛は、大陸での残虐行為という逃れがたい事実のそのゆえに自業自得でもあるのだが、傷痍軍人たちと共に地下壕に棲むこの男の存在が帝銀事件の背後に封印された歴史の暗部を力強く主張している点に、熊井啓が単なる教条的な社会派の映画監督というレッテルに収まりきれない衝動を隠し持っていることを物語ってはいないだろうか。

 さらに圧巻なのは平沢貞通を演じる信欽三のキャスティングの見事さで、被害者の証言で「ろれつがまわらない感じ」と表現される容疑者にこれ以上の適役はないであろう。しかも対照的に「キビキビした」口調の真犯人を演じるのが加藤嘉というのがなんとも絶妙な組み合わせで、それだけで映画としてのおもしろさが保証されてしまったようなものではないか。

 もう一つ付け加えれば、黒澤明好きの熊井啓の真骨頂がよく現れている警察の狭い廊下で刑事を追う記者団のモブシーン(?)が圧巻で、同様のシーンは姫田真佐久のキャメラを得てさらに洗練された演出が「日本列島」でも観られるのだが、ここでもシネスコの画面一杯に記者団の顔がひしめき合ったエネルギッシュなシーンとなっており、こうした力技は撮影所システムが間借りなりにも機能していたこの時代でなければ絶対にお目にかかれない秀逸な演出である。こうしたシーンを観ると、熊井啓山本薩夫のような社会派大作を残して欲しかったと惜しまれてならない。(まだ死んでないって!)

 それに主役の新聞記者が鈴木瑞穂内藤武敏というのもただそれだけで愉しい気分になるのは何故だろう?

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