田口清隆がニュージェネに合流!意外に重要作かも?2014年『ウルトラマンギンガS』備忘録

(最終更新:2023/7/18)
■全16話のミニシリーズです。前作の「ウルトラマンギンガ」に比べると予算も若干増えて、円谷プロらしい体裁になってきました。最上もが(懐かしい)、斎藤洋介(すでに故人…)、山本未來と、配役も豪華ですよ。もがちゃん良かったよなあ。ギンガSといえば、もがちゃんの印象しかない。うそ。この時期、撮影監督は高橋創でしたね。でも途中から西岡正樹が特殊撮影としてクレジットされます。

再見してみた:総括的な所感

■改めて再見してみましたが、やはり粒だった傑作エピソードとしては以下のとおりですね。お話としてはかなり意欲的な取り組みだったし、演出陣も力が入っているのは確か。

■メイン監督の坂本浩一はとにかく熱くて派手。オープンナパーム大爆発もやりたくて仕方ないので、ど派手。キャメラや被写体が縦横無尽に動き回るありえないVFXカットも多数で、VFXチームは大変だったろう。一方で小中和哉なんて実に淡々と特撮を撮っていて、予算ないのわかってるから、これくらいでしょ?と無理のない範囲でさらさら撮っている。その分の予算配分を坂本浩一に回したのかもしれない。(その可能性大)

■でも小中和哉はドラマ全体のバランスを考えてそうしているフシがあり、特撮であまり派手にやってしまうと肝心のドラマの重要なシーンが際立たないから、メリハリを考慮して敢えてあっさり撮っている気はする。終盤の「分裂!UPG」(脚本:武井彩)、「復活のルギエル」(脚本:小林雄次のあたりはまさにそんな感じで、ドラマとしての粒立ちとバランス感覚はさすが。特撮の見どころは少ないけど、UPG解任から基地奪取という燃える活劇回がスマートに仕上がっている。それにしてもUPG基地が怪獣化するのはアイディアとして驚愕だったけど。

■そのなかで、ウルトラマンに初登板の田口清隆の危なげのなさは妙な貫禄があり、特撮も少ない予算の中で一工夫を追求するし、本編演出の安定ぶりは特筆に値するでしょう。なにしろ以下に記す傑作エピソードは全部田口監督だったのだから!まあ、次作の『ウルトラマンX』でメイン監督に抜擢されるのは誰がみても妥当なところですよね。凄いね。

■ドラマ的にはアンドロイド・ワンゼロ=マナが心を獲得する=命を得るというあたりの筋立てに力が入っていて、命とは変化し続けることだから、生きるということはそれ自体が冒険なのだとか言い出すので、なかなか侮れない。「命という名の冒険」(脚本:小林弘利ですね。でもワンゼロ=マナの扱いは若干中途半端な感もあり、そもそも地底民族ビクトリアンてどこにいるの?遠いの?近いの?という不思議な距離感と絡み方も残念だし、元難民のヒヨリもその後生かされず、不完全燃焼で勿体ない印象は残ったな。

■でも本作の実質的な主人公はワンゼロ=マナだったのかもしれないよね。ドラマのなかで確実に大きく変化してゆくのは二人のウルトラマンではなくこのキャラクターだから。だから最終カットは敢えてマナだったわけだろう。肝心な、重要なポイントをすっかり忘れていたな。。。

これが傑作エピソードだ!

第5話「忘れ去られた過去」(脚本:黒沢久子、監督:田口清隆)

■本作は大御所脚本家荒井晴彦のお弟子さん、黒沢久子のウルトラデビュー作。なんとなくおさまった顔している地底民族ビクトリアンにも実は隠蔽された後ろ暗い秘密の過去があってだな、という大人なお話。

■地底王国の不都合な過去の戦争のことは記録からも記憶からも完全に抹消、隠蔽されたはずだった。でも、守護獣シェパードン(忠犬怪獣)だけは闘いに敗れて追放された民のことをちゃんと憶えていた、という実は泣かせるお話で、歴史修正主義者に鉄槌を下すシビアな寓話。演出はそこのところをもう少し押すべきだったが、しれっとよく作ったと思いますよ。テレビ東京系で放映してるんだけどね。

■特撮演出は、まだまだ田口監督もさぐりさぐりという雰囲気で、あまり欲張っていないけど、普通じゃない凝ったカットを何カットかは打ち込んでおきたいという意志は感じる。実際、メイキング映像でもその様子が記録されている。

■このシリーズはチーフ・プロデューサーの北浦嗣巳がその人脈でスタッフを集めているようで、「怪奇大作戦 ミステリー・ファイル」からのスライド参加者が多い。ウルトラはまだまだ女性スタッフが少ないので、タナダユキも連れてくればよかったのに。さすがに無理か。

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第11話「ガンQの涙」(脚本:中野貴雄、監督:田口清隆)

■改めて見直すとなかなかの佳作で、単純なお話だけど、田口監督の本編での丁寧な演出と粘りが反映しているので、心洗われました。

■特撮演出では、高架道路を破壊するカットもメイキングを見ると実はちょっとした仕掛けがあります。まあ普通に合成したほうがいいと思うけどね。本編の河原の夕日狙いのカットは、せっかく合成じゃなく実景で撮っているので、フィルター処理かなにかであんまり色をいじらないほうが良いと思うけど。このあたりは昔の16㍉フィルムのほうが味が出るところだよね。

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第12話「君に会うために」(脚本:林壮太郎、監督:田口清隆)

■これは後世に残る(べき)傑作エピソードで、この枠を見続けてきたかいがあると感じさせる傑作。特撮演出も田口監督らしいマッチムーブ合成が見事で、やっと本領発揮という感じ。やっぱ、手持ちキャメラのマッチムーブ合成がないと田口演出って気がしない。本家本元の大木淳から受け継いだ(?)ミニチュア撮影の長廻しというこだわりもここから進化します。田口監督の得意技の集大成って感じです。

■でもほんとに心温まる泣かせるお話で、実相寺監督自身によるウルトラマンマックスの『狙われない街』よりも上出来。まさかメトロン星人に泣かされるとは!それにしてはあまり話題にならなかったような気がするなあ。なんでだろ?再評価されるべき傑作です。

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ニュージェネの舞台裏

■ちなみに、ニュージェネ路線で過去の人気怪獣ばかり繰り返し登場するのは、予算の制約だと田口監督が明言しています。倉庫にあるぬいぐるみを使いまわしてくれというオーダーだそうです。2018年の頃の記事ですね。
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■さらに、同記事では次のような発言もあり、地上波番組ではそうだろうなあと想像しているとおりの状況のようです。まあ、昭和の昔は子供向け週刊漫画で生首や生腕がポンポン飛んでましたからね、テレビでも当然のように流血三昧でした。泥絵具のような真っ赤な血潮がドバッ!ですね。

田口氏:
 最近は『ウルトラマン』作品でも、そういうグロテスクな表現はダメなんですよ。「角・尻尾・トゲなら壊して良し」っていうルールがあって。
 
藤岡氏:
 最近は、怪獣の身体がバラバラになることはないですね。
 
田口氏:
 昔はビックリするぐらい切っていましたね。でも今は「四肢切断は絶対にナシ」なので。

(出所)電ファミニコゲーマー「いまの子どもたちは『モンハン』で怪獣を見ている」──特撮のプロが見た『モンスターハンター:ワールド』【カプコン藤岡要×『ウルトラマンオーブ』田口清隆監督対談】

■何故か田口監督の担当回しか記憶に残っていないのだな。でも、もがちゃんが具体的にどんな活躍をしたかは覚えてないぞ。悪の手先、アンドロイド・ワンゼロとして登場して、改心してマナとして生まれ変わり、坂本監督お得意のアクションを披露していたはずだがな。

メイキングより

■メイキング映像を観ると、「忘れ去られた過去」で初参加の田口監督が、円谷プロ特撮でよくあるルーティンの移動撮影でも何か一工夫できないかを探っている様子が興味深いですね。

■さらに、ビル破壊の際に飛び散る窓ガラスの破片や部屋の書類を表現する「タグチップ」と呼ばれる部材を大量にビルに仕込む様子が、非常に面白い。田口監督が考案したのでこの名で呼ばれるようになったそうです。この頃はまだそれほど効果を上げていなかったけど、『ウルトラマンX』でかなり派手に展開して定着しましたね。



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