驚くほど何も覚えていない…でも辻本貴則の特撮演出は凄いぞ!そしてピリカ交代劇の謎!2019年放送『ウルトラマンタイガ』備忘録

【最終更新2023/7/25】

はじめに

■ニュージェネレーションヒーローシリーズ第7弾。それが『ウルトラマンタイガ』です。そういえばパイロット版の特撮監督には神谷誠が参加してました。そしてこの時期、撮影はまだ新井毅なんですね。

■なぜかお話についてはほとんど覚えてなくて、主役の井上祐貴すら見た記憶がないという異常現象。新山千春が出ていたこともすっかり忘れていたぞ。なんの役だっけ?(E.G.I.S.の社長です!)かろうじて覚えているのはウルトラマンタイタスの異形と、以下の回の特撮シーンくらい。ウルトラマンフーマなんて存在感が薄すぎて全く記憶がない。

■特撮面を強化するとのことで神谷誠が参加したので、やはり特撮演出には力が入っている気はするけど、それにしてもドラマの印象の薄さはなんだろう?というか異常。以下のエピソードもお話は一切覚えていなくて、怪獣の活躍や特撮の絵づらの斬新さだけで記憶しているのだ。しかも、辻本貴則の演出回ばかりじゃないか!

印象に残ったエピソード

第5話「きみの決める未来」(脚本:皐月彩、監督:田口清隆)

■ピルカが意気投合した娘は怪獣セグメゲルを使役する侵略者だったというお話で、実は終盤で明かされるピリカの秘密を意識した心理的な伏線になっている重要回。

■後に触れるピリカ交代劇のアオリを最も受けた回と思われ、ほぼ全面的に撮り直しているはずで、田口監督の心中いかばかりか。。。ただ、ドラマ的には構成に無理があり、知り合って小一時間の相手とそれだけの信頼関係を構築できるだろうかと感じる。ブラック企業で消耗してないで勇気を持って抜け出せ!自分の未来は自分で決めて良いんだよ!というお話で、テーマ性も悪くないので、実に惜しいなあ。

■このシリーズは特撮パートのボリュームがたっぷりで、かなり豪勢な特撮シーン。セグメゲルの超アオリの移動撮影に、避難民を合成したカットなどさすがの田口演出で、度肝を抜く。

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第11話「星の魔法が消えた午後」(脚本:小林弘利、監督:辻本貴則)

■パゴスにギマイラという土の匂いのする古典的王道怪獣は辻本演出にピッタリ。期待通りの大暴れ。とにかく意欲的なアングルがもりだくさんで、昨今なかなかお目にかかれない地割れまで表現するし、パゴスは四つん這いで暴れるし、特撮演出的にはお腹いっぱいの満点。お話は…記憶にない。


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18話「新しき世界のために」(脚本:足木淳一郎、監督:辻本貴則)

■冒頭、乗り物好きの辻本監督のこだわり演出が驚愕。電車の車窓からの見た目の移動カットで、田口監督が合成で実景にはめ込んだカットは過去にもあったけど、全部ミニチュアで撮りきったので、放映当時も話題になった。GoProの導入で、どんどん狭い場所からの視点が可能になりました。ちなみに、玉蘭という中華料理屋は実在するそうです。

■地球に潜伏する宇宙人による「革命」を描いた異色作で、アパートに暮らす男と女のイメージはまさに70年代テイスト。女を演じる色っぽい岩井堂聖子とは誰かと思えば、高橋真唯の新芸名だった。どおりで見覚えがあるはずだ。監督のイメージとしては女囚さそりなんだろうと思う。『女囚さそり 701号怨み節』の梶芽衣子田村正和だよね。

■テーマ的にも意欲作で、配役もいいし、本当に惜しいんだけど、単体として傑作にはならないのが、このシリーズの弱み。


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第22話「タッコングは謎だ」(脚本:柳井祥緒、監督:辻本貴則)

■という回も確かに謎で、ついにタッコングが新造形で復活する。以前、田口監督もタッコングを所望したけど倉庫にないので断られたそう。辻本監督のこだわりはここでも顕在で、特に車や電車の特撮は動いてナンボという姿勢、ミニチュア特撮に地割れ、陥没は必須という嬉しい嗜好。冬木透の帰ってきたウルトラマンの楽曲も流れて、爺殺しの演出も万全。

■ただ、セットプールは水深10センチ(?)、タッコングの身体はカチカチというのは違和感が大きくて苦しいところ。やはりタッコングはふにゃふにゃ具合が良いのだ。


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総括的な所感

ウルトラマンタロウの息子という設定なのに、タロウのような明朗さも希薄で、とにかく主演の役者の顔すら記憶に残らないというのは、残念ながら配役ミスだろう…トレギアも完全に記憶から抜け落ちているのも、こうしたすかした悪役キャラクターがありきたりで魅力に乏しいからだし、タロウの世界観にこの悪役キャラクターは合わないよね。あくまで頓珍漢な怪獣メインでいけばいいのに。

■今回再見してみて、宇宙人との共存というテーマを扱いながら、全く描けていないことを確認した。イージス内部での異種共存は描かれるけど、個々のエピソードが心に響かず、全く印象に残らない。しかもなぜかファンタジーや魔法要素が意識されていて、召喚士(「きみの決める未来」)とか魔法使い(「星の魔法が消えた午後」「それでも宇宙は夢を見る」)まで出てくるので、困惑する。召喚士とか言われた時点で、もう観る気が失せるというもの。魔法使いの件は、まさかタイガ(ー)といえば魔法(瓶)というダジャレ??

■一部で傑作ともいわれる「夕映えの戦士」は再見したけど、やはり感心しなかった。オーブの「地図にないカフェ」が傑作だったので、同工異曲に感じたな。

■配役は明らかに問題があって、熱血バカであるヒロユキを演じる井上祐貴が明らかにタイプが違う。無理して熱く演じようとするので、テンションのおかしい人に見えるし、人間像が全く定まらない。熱さの中に芯がないからだ。本人の個性にあわせて本を変えればよかったのに。

■作劇的には、トレギアという陳腐な悪役が出入りするため、個々のエピソードに悪影響を及ぼしているし、ウルトラマンのタイプチェンジもテンポがもたつく元凶で、せっかくの活劇のカタルシスを削いでいる。正直、トレギアがいっぱい出てくるお話はそれだけで観たいと思わないよね。(もちろん個人的な趣味嗜好のはなしですよ)

ピリカ交代劇は政治案件だった?

■ここで思い出したけど、終盤で重要な(というか衝撃的な)役を演じるピリカの配役が、2019年5月22日の制作発表後、6月7日に桃果から吉永アユリに急遽変更されるという奇妙な事件があった。スケジュールの都合がつかなくなったための降板と公式には言われているが、すでに大半を撮影済みのタイミングであり、普通に考えて相当不自然なことだ。

■2019年3月にエキストラ募集が行われていることからもわかるように、本編の撮影はすでに相当進行していた。本編のクランクアップは同年9月だったらしいので、まだ撮影は終了しておらずクルーは解散していない段階だったので、急遽再撮影を行って差し替えを行ったらしい。

■一部では、その降板の理由は政治的な配慮だったのではと言われており、なかなか闇が深い。確かに、桃果は前年に『哲人王 〜李登輝対話篇〜』という映画に主演しており、同年6月21日に日本公開が控えていたのだ。

■こうした事実経緯を踏まえると、スケジュールがかぶったというのは表向きの理由で、台湾寄りの映画に主演した俳優は中国で受け入れられず本作も放送できない可能性があるから降りてもらうという判断がなされたように思える。あるいはそんなマイナーな映画のことなど問題なしと製作側は判断していたけど、製作発表後に、上記映画の存在を問題視する筋、親会社フィールズの株主、あるいは単なるオタクの老婆心から、なんらかのクレームや意見具申が付いたのではないか?確かにありそうな話にも思えるが、真相は明らかにされていないので、鵜呑みはしないように。でも後任の吉永アユリも桃果と同じ事務所なので、俳優側あるいは事務所側になんらかの否があったわけではなさそう。露骨に不自然な交代劇で、現実のほうがトレギアより闇が深かったかもというお話でした。
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