『女体』

基本情報

女体
1969/スコープサイズ
(2001/3/16 京極弥生座1)
脚本/池田一朗増村保造
撮影/小林節雄 照明/渡辺長治
美術/渡辺竹三郎 音楽/林 光
監督/増村保造

感想(旧ブログから転載)

 私学の理事長(小沢栄太郎)を揺すろうとした女(浅丘ルリ子)と渉外担当として関わり合うことになった秘書(岡田英次)は、彼女の激しい気性に惹かれてゆき、彼女の愛人(川津祐介)を誤って殺してしまう。これを機に妻(岸田今日子)の元を去り、女とバーの経営を始めるが、多情な気性の女は今度は男の妹の婚約者(伊藤孝雄)に惚れ込み、ストーカーのように追い回し始めるのだが、それが女を自滅へ導いてゆく。

 常軌を逸した激しい思いこみで恋愛に没入する激しい気性の女を浅丘ルリ子に演じさせ、その沸き返る情熱の発露を、何故かモダンダンスとして表現した増村保造の一種の怪作ともいえる作品だが、ある意味では増村保造の作品の系譜の中での一つの頂点ともいうべき力作である。映画館で観ると、テレビ放送では気づかなかった剛速球の魔力に確実に翻弄される。その強腕ぶりはむしろ「夫が見た」よりも顕著である。

 「妻は告白する」「夫が見た」「赤い天使」「清作の妻」等の作品で増村保造が突き詰めてきた奇矯な女性像のひとつの頂点とも言うべき、あまりにも破天荒な主人公を造形したという意味で、増村保造の映画の中ではあまり高く評価はされていない作品だが、無視することはできないだろう。

 実際、ヒロインの狂気にも似た情熱に翻弄され、その情熱と付き合ってゆくことを選択する分別盛りの岡田英次が大学の同窓である弁護士(北村和夫)と「どうせ我々戦中派には戦後はオマケのようなものだ」とか「日本も経済的に豊かになって、今後あんな女が増えて来るぞ」などという会話を交わしたりするあたりの、恐らくテレビ放送ではカットされるに違いないシーンで、増村保造の真情が吐露され、自分自身が描く女性像が客観視されていることが明らかとなる。

 理性では抑えきれない、男へ向ける一方的な情欲が岡田英次を失わせ、女を孤独な死の淵へと誘い込むことになるわけだが、クライマックスでの浅丘ルリ子岡田英次の刃傷沙汰寸前の押し問答のシーンが増村保造の面目躍如たる名シーン。男と女の論理のすれ違いが生死ぎりぎりのところで激烈に闘わされてまさに圧巻。これぞ、増村映画の醍醐味だ。

 半裸の骨張った体躯で狂ったようにダンスを踊る浅丘ルリ子の怖さもさることながら、戦後営々と積み上げてきたものをあっさりと投げ出して女に入れあげる岡田英次の冷めた情念がとにかく素晴らしい。これは岡田英次の代表作でもあるだろう。

 しかも、この力作をピカピカのニュープリントで堪能できるとは、望外の幸せというものだ。

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