韓国の奴隷島事件を描いた社会派実録映画?と思ったら違った!『奴隷の島、消えた人々』

基本情報

奴隷の島、消えた人々 ★★★
2016 ヴィスタサイズ 88分 @DVD

感想

■韓国のとある孤島の塩田で奴隷的な労働が強制されている。そんな憶測の裏を取るため、テレビ局の記者が潜入し、冬枯れた塩田労働者が知的障害者であることを確信するが、地元警察に虐待の通報をしても善処しないばかりか通謀していて。。。

■というお話で、「新安塩田奴隷労働事件」という実在の事件を描いている。というなんとなくの予備知識だけで観たのだが、実はそれらしいのは第二幕までで、第三幕は思いがけぬ逸脱を見せる。第二幕までのPOV形式の潜入取材場面は、確かにドキュメンタリー的なのだが、そもそもの「新安塩田奴隷労働事件」って、労働者が100人以上存在したという事件なので、この映画で描かれる事件とはスケール感が違う。映画ではあくまで特定の一家が首謀者として描かれる。しかも、どうもその一家も何者かに殺された、殺人事件が絡むらしい。。。

■正直なところ、社会派実録映画と思い込んで観ていたので、終盤の超展開には呆気にとられました。え、連続殺人鬼モノだったの?韓国映画お得意の連続殺人鬼映画のジャンル映画ですよ、これ。だから社会派としての問題意識は希薄で、どやビックリしたやろ!という姿勢で撮られている。

知的障害者を低賃金で奴隷的な労働に従事させる塩田経営者の狂ったロジックを描くのでは、もちろんなくて、奴隷的な労働で支えられる孤島の塩田で起こった謎の連続殺人事件はなぜ起こったのか?というミステリーになっている。確かに、意表を突きはするが、知りたかったのはソレじゃないという場違いな感じは拭えない。それなりに面白いんだけど、そもそも犯人は何がしたかったの?このあとどうなったの?というところが投げっぱなし。正直、犯人像には謎が多い。塩田事件の前に発生していたという未解決の連続殺人事件まで持ち出して、語り口はご都合主義というものだ。

■POV場面で、キャメラがズームするたびにウィーンってレンズが動く効果音をつけるのも鬱陶しい。いまどきそんな音、録音に入りませんよね。POV場面で演出は正直わざとらしいだけ。素材となった事件の内包する地方社会全体の問題を矮小化してサイコパスのお話にしてしまったのは、さすがに竜頭蛇尾の感を拭えない。その意味ではかなり残念なんだけど、サイコスリラーとしては退屈ではないんだよね。

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