とれとれピチピチ『蟹工船』

基本情報

蟹工船 ★★☆
1953 スタンダードサイズ 112分 @DVD
製作:山田典吾 原作:小林多喜二 脚本:山村聡 撮影監督:宮島義勇 撮影:仲沢半次郎 特殊撮影:佐藤昌道 特殊技術:奥野文四郎 照明:吉田章 美術監督:小島基司 美術:渡辺竹三郎 音楽監督伊福部昭 監督:山村聡

感想

■昭和初期、カムチャッカの海でカニ漁とカニ缶加工に携わる蟹工船は浅川監督がすべてを牛耳る独裁国家さながらだった。事故で死んだ漁夫の弔いもろくにさせず遺体を海に遺棄した監督に漁夫たちの怒りが爆発、労働環境の改善要求を突きつけるが。。。

小林多喜二のお馴染みのプロレタリア文学の古典を左翼独立プロがイケイケだった時期に映画化した野心作。その制作経緯にも興味は尽きないが、スタッフは独立プロの大物がずらり。しかも脚本と監督が山村聡という異色作。もちろん特撮シーンもあるが、低予算ゆえ、合成カットがいくつかあるくらいで、ミニチュア撮影はプールの水平線に船舶のシルエットが見える程度。

■原作からかなり大きく改変した脚本はあまり褒められたものではなく、そもそもフィルムの傷みがはげしいDVDなので、セリフも聞き取りにくく、鑑賞には困難が伴う。山村聡森雅之は力のないインテリ役で脇役として登場、主人公はなく、群像劇になっている。そこも作劇の弱さに繋がっていると思う。一番目立つのは浜村純や河野秋武や小笠原章二郎といった底辺の労働者たち。当然だけど。

■いや違う。一番目立つのは会社の立場を代表して蟹工船を牛耳る監督、浅川を演じた平田未喜三という俳優。正確には職業俳優ではなく、千葉県 安房鋸南町の網元や町長を務めた地方の名士で、日活の若手だった平田大三郎の父親。この人物の破天荒な生き方を東宝で映画化した際に、山村聡が本人を演じた経緯があり、山村聡がこの難役に起用したらしいけど、素人のおじさんに見事に演じさせたのは山村聡、素直に凄いんじゃないか。黒澤明は幻の『トラ・トラ・トラ』で試みたけど、なかなか埒が明かなかったようだし。これがタイプキャストの悪役俳優に演じさせると、この恰幅のいい、腹黒さの計り知れない妙なリアリティは出ないだろう。そしてこうした経験を山村聡は自身の演技に生かしたのではないか。『傷だらけの山河』の大資本家役なんて、その成果じゃないだろうか。

蟹工船の船底にはあらくれ労務者たちの慰みものになる少年たちが雑魚寝している様子も末世的な光景で、昭和28年によく描いたと感心する。見るべき部分は少なくないし、起承転結はキレイに決まっているのだが、職業脚本家に書かせればもっとバランスが良くなったと思うなあ。

■最終的に蟹工船労働争議は駆けつけた駆逐艦によって平定され、まるで『戦艦ポチョムキン』の大階段のように、労働者たちは「売国奴」の名のもとに、同胞たちによって撃ち殺される。蟹工船駆逐艦が仲良く寄り添うように連れ立った姿で映画は終わる。大日本帝国海軍はロシアの戦艦から同胞を保護するために警備するのではなく、ロシアに接近することで赤化する労働者たちを駆除するために、そのにいるのだ。まあ、そのあたりのロジックは原作のほうが念入りに描いているだろうけど、単純に活劇として盛り上がるものの、演出としては全般に未熟だと感じる。監督は半素人だけど、技術スタッフはベテラン揃いなので、そこには制作体制の困難さがうかがえるのだが。

参考

maricozy.hatenablog.jp
maricozy.hatenablog.jp
平田未喜三って、滝沢修より大物に見えたりするから凄いよね。なぜか『ノストラダムスの大予言』にも出てますよ!
maricozy.hatenablog.jp

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