ロリコン親父にレズビアンの鉄槌を!『美しさと哀しみと』

基本情報

美しさと哀しみと ★★☆
1965 スコープサイズ 103分 @DVD
企画:佐々木孟 原作:川端康成 脚本:山田信夫 撮影:小杉正雄 照明:中村明 美術:大角純一 音楽:武満徹 監督:篠田正浩

感想

■小説家の大木(山村聡)は、かつて十代の少女を懐妊させ捨てた過去がある。だがいまは画家として成功しているかつての少女、音子(八千草薫)と京都で再開する。しかし彼女の内弟子のけい子(加賀まりこ)は音子と同性愛関係にあり、師匠の復讐のために小説家と関係すると、さらにその長男(山本圭)まで誘惑しようとする。。。

■というお話で、ずいぶん昔に観ていたのだが、ほぼ忘れていたので改めて再見した次第。確かに、第一幕のあたりは演出も技術スタッフもノリノリで先鋭的かつグラフィカルな画面構成がキレキレなので、この調子でいけば傑作になるのではと思わせる。実際、京都の音子の家の場面は、美術装置も豪勢なものだし、逆光気味に二人の美女を捉えた様式的な映像は絶品。まるで大映京都かと見違えるほどに陰影を濃く色付けして、大胆な照明設計で、美的で幻妖な時空を生み出す。直角移動による長廻しのショットが白眉だし、ステージ内の俯瞰撮影も凄い。小杉正雄の撮影は端的に凄い。この時期松竹では成島東一郎などの新鮮なキャメラマンが台頭していたので、ライバル意識が燃えたのかも。

■このタッチで文芸怪奇ロマン映画にしてくれれば文句はなかったのになあ。実際、狂気と怨念が交錯する道具立てや苛烈な人間関係など、怪奇ロマンとしてまとめた方がしっくり来るはず。もちろん、文豪の原作なのでそんな通俗は許さないわけだが、お話の筋立て自体相当に通俗だからね。

■脚本が山田信夫なので期待したのだが、正直原作に振り回されて消化不良だ。原作の衒学的な台詞を尊重したようだが、そんなのもっとバッサリと整理すべきだった。その方がテンポが良くなって、面白くなるから。

■お話の第三幕が山本圭演じる大学生をけい子が篭絡して堕落させる場面になるのだが、これがどう考えても駆け足すぎて未消化だ。二人の泊まったホテルに母親(渡辺美佐子)から荷電がある場面もドラマ的には見せ場だけど、なにしろすでに時間がないから発展しないし、琵琶湖ホテルの部屋自体が装置として無味乾燥で面白みがない。これが増村保造なら、役者の演技だけで堂々たるクライマックスを形作るところだけど、篠田正浩にその熱量はない。もっとクールなのだ。

■最終的なドラマの決着もボート事故で山本圭が死にましたで終わっても、まったくテーマ的に落ちがつかないし、クライマックスの高揚が成立していない。映画には(演劇由来かも?)スパッとクライマックスで幕を引く手法もあって、成功作も少なくないのだが、本作はそうした趣向でもないようだし、結局何がしたかったのか?という感想しか残らない。けい子の山本圭への愛情は全く無かったのか、純粋に恋しい音子の身代わりとしての復讐劇だったのか、もちろんそこは曖昧にさせるわけだけど、増村保造ならその曖昧さを残しつつ、もっと強引な図式劇を敷いてでもクライマックスのカタルシスを構成するよなあ、と思う。

参考

正直、以前に観たときの評価は高すぎましたね。篠田正浩は『乾いた花』を観ちゃったからなあ。
maricozy.hatenablog.jp
『乾いた花』は奇跡的な傑作ですね。篠田正浩の資質が完璧に映画に反映した畢生の傑作。
maricozy.hatenablog.jp

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