怖いというよりも、読んでて結構ヒヤヒヤする『怖い村の話』

参考

■なかなか微妙な本を読みました。都市伝説で流布される全国の「いわくつきの地」のカタログともいうべき本で、例えば「犬鳴村」「つけび村」「売春島」「奴隷島」といった、どこかで聞いたことのあるようなオカルト&都市伝説事案が、単なるネット情報のまとめではなく、実話怪談テイストの掌編集といった趣向で並んでいます。人口に膾炙する、僻村や孤島や秘境(?)絡みの都市伝説をフィクショナルに小説化した感じで、読みやすくなっているし、短編小説的なヒネリが効いたものもあり、非常に楽しめます。

■怪奇映画や怪奇小説は好きなのですが、さいきんのオカルト系怪奇実話には疎いので、単純にこんな話や実話があるのかと興味深いものがあります。しかも、興味深い事件や口碑のなかには小説化や映画化されているものが多く、「犬鳴村」はもちろん、「奴隷島」は例の幻の映画『怒りの孤島』として劇化されています。『火まつり』って、「熊野一族7人殺害事件」の劇化だったのも知らなかった。というか、すっかり忘れていた。そんな事件あったよなあ。

■例えば映画の『犬鳴村』では村が呪われた背景についてはあまり明確な理由を描かないわけですが、これは現在の人権感覚の観点から具体的な禁忌を描くと、様々な批判にさらされることになるからでしょう。本書ではちゃんと製鉄を生業とした「たたらの民」に対する差別感情について書かれています。これは映画『もののけ姫』でも描かれているので有名すぎるし、ウィキペディアにも書かれているので、映画版では避けたのかもしれませんけどね。

■「いわくつきの地」の「禁忌」に触れるということは、必然的に差別・被差別の歴史を理解する必要があるのだけど、その扱いや書きぶりに少々危うげなところが散見され、読んでいてヒヤヒヤする部分があります。若い筆者たちがちゃんと背景を理解せずに扱っている感じがするからですね。

■オカルトギミック系のエピソードは小説的に盛りすぎのものも散見されますが、逆に「泥棒村」とか「足尾銅山」とか「売春島」などの純粋に実録のエピソードがぐっと来ますね。「岡田更生館」「加茂前ゆきちゃん失踪事件」なんて全く知らなくて、その内容に軽く衝撃を受けました。

■まあ「足尾銅山鉱毒事件の全体像については、田中正造だけではなく、もっと分かりやすく書かれた書籍がないかと思いますよね。ちっともオカルトでも怪奇実話でもないけど、リアルに怖い怖い社会問題。

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