京の都は燃えているか?今どき貴重な時代劇大作『燃えよ剣』

基本情報

燃えよ剣 ★★★
2021 スコープサイズ 148分 @アマプラ
原作:司馬遼太郎 脚本:原田眞人 撮影:柴主高秀 照明:宮西孝明 美術:原田哲男 VFXスーパーバイザー:オダイッセイ 音楽:土屋玲子 監督:原田眞人

感想

新選組副長、土方歳三の「ケンカ屋」としての生き方を描いた年代記調の時代劇大作。正直なところ誰が観てもダイジェスト版という印象になってしまうのは、作者の戦略が成功していないということになる。でも、決して退屈ではない。もともと前後編二部作(多分2時間✕2本)の構想だったらしいから、さもありなんというところ。

■個人的には幕末の天皇、将軍、会津藩新選組の関係についてはNHKの『八重の桜』が会津からの視点で見事に簡潔かつ荘重な図式でさばいてみせたので、あれ以上のものはなかなかありえないと思う。そこがわかりやすく面白く悲劇にならないと、ドラマ的には盛り上がらない。本作は幕末の思想対立や政治の駆け引きをわかりやすくは説明しない。そこが面白さの肝なのに。そのために、各派閥の思惑の混乱が表面に出て、サスペンスが生まれない。もっとシンプルに再構築しないとさすがに厳しい。

■配役も小粒で、あまり大御所は出ていないし、高嶋政宏にしても伊藤(キノコ!)英明にしても、貫禄が足りないなあ。原田眞人らしいニュアンス演技を生かした編集でテンポは良いので観てしまうのだが、ドラマとしてのコシの弱さは払拭できない。

■一方、技術面ではさすがに超大作らしく貧乏臭さは皆無で、中岡権源の弟子筋で、東映の杉本崇と並んでいまや時代劇照明の第一人者である嵯峨映画の宮西孝明がここでも実にいい仕事を見せる。撮影所のセットの室内とロケセットの室内が綺麗に繋がるのは、ポスプロ技術の発達もあるが、さすがに金のかかったいい仕事。でも、本当は映画館で観ないと暗闇の階調のニュアンスが把握できないね。ただ、岡田准一が自分で考えた斬新な殺陣をハリウッドスタイルの編集で切り刻んだのは勿体ない。あれはカット割は少なくして、引きで見せるべき。東映ならそうするし、木村大作(映画監督の)だってそうするよね。

■制作は東宝映画で、東宝撮影所も使用されている(?)が、東映京都撮影所、松竹撮影所の方がメインで、しかも実質は近畿圏や岡山などの社寺ロケセットがメインという感じだ。実際、よくもこれだけの分量をロケ撮影したものだと感心するし、よくも貸し出したなあと感じる。しかも普通に観光で見るとカサカサした古い建物が、映画ではちゃんと艶々と質感が高いのは、さすがに映像制作に金がかかっている証拠で、それだけでありがたい気がするというもの。柴咲コウの部屋なんて京都のステージかと思いきや、岡山の歴史的建造を使ったロケセットなので、吃驚した。一方、監督のこだわりの池田屋彦根に実物大でオープンセットを構築したらしい。ちなみに監督いわく、「時代劇の撮影は京都が中心なので四国に渡るのは予算面で難しいんですよ。」とのこと。
shirobito.jp配役は小粒だけど、技術面での資本投下は近頃では珍しい破格の規模だろう。こんな贅沢な映画制作は、いまどき原田眞人にしか許されないようだ。

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