暴徒は戦車で踏み潰せ!革命の理想や今いずこ?『KCIA 南山の部長たち』

基本情報

KCIA 南山の部長たち ★★★☆
2019 スコープサイズ 114分 @DVD

感想

■1979年に起こったKCIAの部長による朴正熙大統領暗殺事件の顛末を、史実をベースに創造力で補ったという実録風映画。朴正熙殺害場面になんとなく既視感があるなあと思ったら、昔『ユゴ 大統領有故』を観ていたのだった。

KCIAの元部長が米国に亡命して朴正熙大統領の腐敗を糾弾しはじめると、親友で後任のキム部長は穏便に収めようとするが、粗暴な警備室長との対立の中で、大統領の期待に応えるために自ら元部長の謀殺に手を下すはめに。だが大統領からはかえって疎んじられ。。。

■という非常にわかりやすいお話に翻案されていて、登場人物の人間像も単純化されている。情報部長と警備室長の口論なんてまるでこどもの喧嘩あるいはやくざの喧嘩だし、警備室長はほとんどイケイケのヤンキーあるいはジャイアンである。一方の情報部長も自ら雨の夜に密会の場に潜入して壁越しに大統領を盗聴するという、現場の工作員レベルの小人物。いかに元軍人とはいえ、仮にも組織のトップがやることじゃない。このあたりの登場人物の卑小化は意図的なものかどうなのかは不明だが、実際はもっとレベルの高い会話があったはずだろうと思う。いくらなんても国家指導部があのレベルでは国が成り立たない。そういえば、本作のイ・ビョンホンって、のび太に似てるよなあ。

民主化運動を求めるデモ隊に対して、「暴徒は戦車で踏みつぶせばいい」という警備室長と大統領の乱暴な発言に堪忍袋の尾を切らすことになる。1961年の革命の理想はどこに行ったのか?それは、意見の異なる者を暴力で弾圧することではなかったはずだ。という信念から大統領を暗殺することになる。ただ、イ・ビョンホンの頼りなげな幼い表情は父ちゃん坊や風で、そうした死地をくぐってきた革命の理想を感じ取るのは困難で、せいぜい保身に汲々としている小役人にしか見えないのだが、それで良かったのかな?そもそも「5・16軍事革命」と呼ばれる軍部による武力クーデターだったわけだから、そんなにキレイな理想や理念があったわけではないけど。そこに、脚本兼監督のゥ・ミンホの、主人公を一方的に美化しない配慮があったかもしれないけどね。

■それにしても、自分の国の歴史的恥部を大衆娯楽活劇に仕立てて、全世界に売っちゃうわけだから韓国映画界は大したものですよ。振り返って、コロナ禍の影響も甚大な日本映画に未来はあるのだろうか?(アニメ以外)

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