聞いてないよ!海底軍艦なのに空を飛ぶ!?『海底軍艦』

基本情報

海底軍艦 ★★★☆
1963 スコープサイズ 94分 @アマプラ

感想

■映画の第二幕まではやっぱり傑作で、主人公一行が神宮寺大佐率いる轟天建武隊の基地にたどり着き、すかさず轟天試運転に立ち会い度肝を抜かすまでの筋運びはさすがに関沢新一だし、サスペンスと戦争秘話の哀感が綯い交ぜになって、絶好調と言っていい。ただ、それ以降の展開は駆け足で、いきなり大島に出現したムウ人が攻撃を開始し、丸の内オフィス街一体を大陥没させる。その前に世界各地で大陥没が起こっていることが新聞記事で紹介されるけど、第三幕は実に一本調子で筋運びの綾がない。ムウ帝国も海底軍艦に対するにしても、海竜マンダと小型の潜航艇しかないのでは勝負にならない。
■どうも田中友幸の脳裏にはシリーズ化の野望があったのではないか。本作の意義は海底軍艦の設定紹介編で、続編から本格的な冒険ドラマが展開する想定だったのではないかな。確証はないけど、『惑星大戦争』で敢えて観客の受け止め方など斟酌せず轟天号を復活させるわけだから、思い入れはひとしおだっただろう。
■製作決定から公開まであまりに時間がなかったので、特撮班は3チームに別れ、まだ松竹在籍中の川上景司とチーフ助監督だった中野昭慶がB班、C班の撮影を指揮したと言われている。確かに、マンダが冷線砲に凍りつく場面など、マンダのモデルが小さすぎで、あまりに苦しい。また、轟天号のドックに注水する場面も、水流のスケール感が小さすぎて、効果音もあえてゴーという轟音ではなく、なんとなくお風呂の水を入れているようなショボショボした中途半端な効果音を付けている。円谷英二のこのあたりの反省は、『マイティジャック』で見事に解消するわけですね。
■この頃の本多円演出は円熟期に入り、撮影の小泉一とのコンビも危うげがない。轟天号基地の湖畔でのナイトシーンのつぶし具合も非常に綺麗だし、夜間ロケでは得難い効果をあげている。この頃の東宝特撮映画における夜景のリッチさは、この疑似夜景の効果によるものだ。リアルを求めれば、夜間撮影のほうがもちろんリアルだが、この時代の「東宝の夜」の贅沢さはロケでは生まれないだろう。
■本編の白眉は、轟天号試運転で島の湖水から轟天号が浮上する場面で、凝った合成などは使わず、単純な切り返し編集によるシンプルな演出だが、効果は絶大で、完璧な映画表現だと感じる。上原謙らの表情からは、「えー海底軍艦って聞いてたけど、こいつ空飛ん出るじゃん」という無言の驚きと、見てはいけないヤバいものを見てしまったという恐怖感すら感じさせる。轟天号はおなじみの巨大ミニチュアが操演によって単純にゆっくりと旋回するだけなのに、その圧倒的な存在感が、人知を超えたヤバい代物、ありえないオーバーテクノロジーの恐怖という感覚を醸し出してしまう。奇跡的な演出と編集である。もちろん、伊福部昭の楽曲の効果も稀有のもの。
■その意味では、この世にあってはならない強大な兵器に対して、いかにドラマ的に決着を付けるかというところに続編の眼目があったのかもしれないし、そのときは関沢新一ではなく木村武(こと馬渕薫)が呼ばれたのかもしれないと妄想してみる。

海底軍艦

海底軍艦

  • 発売日: 2014/07/01
  • メディア: Prime Video


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