もうひとつの「非行少女」?浦安に生きる若い根っこたち!『川っ風野郎たち』

基本情報

川っ風野郎たち ★★★
1963 スコープサイズ(モノクロ) 88分 @アマプラ
企画:大塚和 原作:香山美子 脚本:中島丈博 撮影:井上莞 照明:松下文雄 美術:内田喜三 音楽:渡辺宙明 監督:若杉光夫

感想

■浦安がまだ海苔の養殖や採貝が盛んな漁村だった頃、父親が事故死して貧しい北野家の子どもたちは学校や就職で苦労することになる。妹のあり子は学業優秀だったが、大学進学を諦め、片親と言われデパートへの就職に失敗すると享楽的な生活に堕落してゆき、ついに日本を脱出しようとするが。。。

■という原作者あり子ちゃんのお話が本筋のはずだけど、兄役の山内賢の通う定時制高校の話の比重がかなり大きく、最終的な印象は定時制高校を描いた映画に見える。定時制高校には松原智恵子がいて、山内賢とのカップルという構図。若杉光夫の映画はえてしてそうなのだが、完全に教育映画に見える。

■浦安独特の小さな漁船が蝟集する川筋を遡行してゆくと主人公たちの掘っ立て小屋のような家が見えてくるオープニングの移動撮影が秀逸で、この時代と風土の記録資料としても貴重だろう。日活映画だが、実質的には民藝映画社に下請け(?)に出された映画で、メインスタッフはお馴染みの面々。基本的に現地でのロケ撮影がメインで、リアリズム志向。そのおかげで、物語の舞台となる町並みや世界観がまるまる映し出される。

■ただ、アマプラの画質はかなり厳しくて、基本的に放送原盤がよろしくないらしい。もっと入念なリマスターをすれば、映像のディテールや立体感が際立つはずで、ロケ撮影の真価も再確認できるはずなので、惜しいなあ。日活のリアリズム映画はお話の舞台となる町並みや空間が主役という感じがあるので、映像のディテールは非常に重要なのだ。

若杉光夫という人はほんとに真面目な人らしく、どの映画も誠実で丁寧なのだが、なんというかもう少しユーモアのセンスと要素がほしい気がする。貧しくて厳しい生活の中にも可笑しみが潜んでいるはずだが、あまりそこには興味がないらしい。

山内賢は後のエレキ歌謡映画ではかなりC調なアドリブ演技を披露するが、真面目に演じると実にいい味で、こうしたリアリズム映画にも映える。定時制高校を軸として、学友たちの離反と結束を描くお話で、そこに最終的にドロップ・アウトしそうだった妹を吸収することになる。貧しく不遇な若者たちは連帯するしか生き延びられなかったのだ。

■優等生だったのにグレてゆくあり子ちゃんが和泉雅子で、同年に『非行少女』が先に封切られ、本作はその1ヶ月後に公開された。なにしろこの年は毎月新作が公開されるという絶頂期。演技的にも充実していて、『非行少女』の経験がそのまま生かされていると感じる。

■脚本は若き日の中島丈博で、さすがに構成にそつが無いが、ややクライマックスが弱い気がする。というか非常に地味。でも無理矢理に大きなクライマックスや愁嘆場を作ろうとしないところも、日活リアリズム映画の特徴。だって、そんなのリアルじゃないからね。
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