基本情報
俺の背中に陽が当たる ★★★
1963 スコープサイズ 99分 @アマプラ
企画:水の江滝子 原作:渋谷健 脚本:佐原靖郎、中平康 撮影:高村倉太郎 照明:森年男 美術:大鶴泰弘 音楽:伊部晴美 特殊技術:金田啓治 監督:中平康
感想
■ヤクザから足を洗う決意をして出所した兄貴(内田良平)を嵌めて殺人犯に仕立て上げた組長(山内明)を俺は許さない!犯罪の証拠を掴むためには宿敵の組長に弟子入りし、懐に飛び込むことも俺は厭わない。だが親分はなかなか尻尾を出さないしたたか者で、しかも香港に高跳びするらしい。。。
■クレジットでは吉永小百合がトップに来るが、実際の主演は浜田光夫で、しかも純粋ヤクザ映画という看板に偽りありな罪な映画。日活青春路線を期待して観に来たサユリストの皆さんは、あまりの残酷な流血絵巻に卒倒したことだろう。
■麻生組長を演じる山内明が出色で、台詞が非常によく書けているおかげで、実にリアルな残酷さといやらしさを表現している。内田良平を罠にはめて殺人犯に仕立てる場面とか、浜田光夫の魂胆をなんとなく知りながら親譲りのヤクザの才能を嗅ぎ取って掌中に収めようとする場面とか、見事な描写で、本作の最大の見どころは山内明の演技だ。
■その周りには小高雄二もいるのだが、小さな役回りで、むしろ北見治一が妙に大役で、儲け役。日活なので、基本的には劇団民藝のみなさんが大挙出演するわけですが、わざわざ文学座からの登板です。しかも、映画ではあまり大きな役は振られない小粒な北見治一がなぜか大活躍。北見治一ファンにはたまらない贈り物!ヤクザ組織の中で小狡く立ち回ろうとするものの、如何せんその器の小ささから、新入りの浜田光夫に良いように使われてしまう羽目に。組主催の歌謡ショウの会計担当でウハウハ言ってたら、浜田光夫に美味しいところを浚っていかれる場面なども、その小物感が絶妙なリアルさで同情を禁じ得ない。。。
ちなみに、この場面で青山ミチの「ミッチー音頭」が流れますが、青山ミチといえば覚醒剤で何度も逮捕された人で、当時からヤクザとの関わりが公然の事実だったという含みでしょうかね。名曲多数なんですがね~
そして、「ミッチー音頭」は大西ユカリの十八番でしたね!「新ミッチー音頭」だ!
maricozy.hatenablog.jp
■原作小説がどんなものだったのか未詳だが、筋運びは映画的というよりも小説的なツイスト多数で、それだけでもかなり見ごたえがある。前半は内田良平が主演かという感じの展開だったが、序盤で見事に惨殺される。その殺しの演出も念が入っていて、詰め襟のセイガク(学生)ヤクザにナイフで背中を滅多刺しにされる場面の血まみれ具合も異様だし、ロケの夜間撮影、長回しで描くそのリアルな痛さ演出は今村昌平レベル。いやもうエグいですよ。ナイフがザクザク刺さる!『泥だらけの純情』もそうだったけど、中平康のヤクザ描写は実にリアルで怖いのだ。中平康のヤクザ映画はもっと再評価されるべき。
■最終的には浜田光夫は何もなかったかのようにガラス磨きの正業に復帰して呑気に終わるわけだけど、実質は陰惨なヤクザ映画で、浜田光夫の活劇路線を模索した企画らしいけど、「活劇」と言うよりも「惨劇」と呼ぶのがふさわしい異色作。正直、これでは路線化は無理ですわ。そして、図らずもヤクザ映画に出てしまった吉永小百合の心境やいかに。