キミが豚なら、ボクはウジ虫?今平による大群獣ネズラの試み?『豚と軍艦』

基本情報

豚と軍艦 ★★★☆
1961 スコープサイズ 108分 @DVD
企画:大塚和 脚本:山内久 撮影:姫田真佐久 照明:岩木保夫 美術:中村公彦 音楽:黛敏郎 監督:今村昌平

感想

■横須賀の弱小ヤクザたちが米兵相手の売春を規制され、米軍放出の残飯で豚を飼育するシノギに手を染めるが、横槍を入れた老ヤクザを殺し、死体の始末に困ったことからケチがつきはじめ。。。
今村昌平出世作。既に『にあんちゃん』で数々の受賞経験を持ちながら、敢えて社会の底辺に蠢くウジ虫たちの姿をこそテーマとしようと決心した意欲作。実のところ、『キューポラのある街』でもそうなのだが、同時録音の音質が悪く、台詞が不鮮明な部分が多々あり、お話の流れがわかりにくいという欠点があるのだが、なんといっても姫田真佐久の撮影が凄いから、お話よりも映像の凄さに打たれる。
大映東映のモノクロ撮影は、宮川一夫などの名手を除いて、どちらかといえばハイコントラストで陰影がキツイ映像を良しとする傾向がある。特に大映は独特の照明デザインにこだわりがあり、中間階調の豊かさよりも、陰影の表情を狙うスタイルなので、意外と中間階調が生かされない。東映の場合はもっと雑で、インパクト重視でコントラストも上げるし、粒状性も荒い。これらに比べると当時の日活のモノクロ撮影はちょっと狙いが違っていて、姫田真佐久も照明の岩木保夫も技術者としてのルーツは大映なので大映調を意識しながらも、もっとグレイゾーンを狙った画作りをしている。しかも、今村組はロケメインなので、舞台全体のディテールを中間快調の部分で表現しようとする。『キューポラのある街』では構図もオーソドックスだし、照明設計も正攻法なので、非常に細部まで綺麗なモノクロ撮影が仕上がっているが、本作ではもっと荒々しいロケ撮影が意図されている。
■なにしろ本作のモノクロ撮影は、舞台の汚らしさをそのままリアルに表現することに注意が注がれていて、海岸のバラック部落(オープンセット?ロケセット?)の崩れっぷりや、どぶ板の路地やトイレの臭ってきそうな質感がモノクロ映像で見事に表現される。どんなに汚い被写体もキャメラで撮ると、意外に綺麗に見えてしまうものだが、本作の撮影はウジ虫どもの蠢く世界の猥雑さをそのまま映像として造形している点が凄い。
■さらに、地面を這いずるウジ虫共の生態を大クレーン撮影するスペクタクルが凄いことになっている。西村晃を攻め立てる場面の長廻しなど、ロケ先の屋根を取り外して撮影したらしい。確かに、そうしないとクレーンが入れません。相米慎二の強引な長廻しは溝口健二に倣ったものと思っていたけど、ルーツはここにあったのか。吉村実子一家の話を長門裕之が壁の向こうで並行して歩きながら聞いている場面のクレーンショットのスペクタクルも凄い。こうしたセンスは今村昌平のものなのだろうか。
■お話の方は、ボーナスを弾むからと豚の世話を命じられたチンピラヤクザが、文字通り米国のブタとして暮らす横須賀から、恋人と一緒に川崎に脱出して平凡な職工として生きていけるかどうかというもので、この恋人役を新人だった吉村実子が演じて、これまた見事。最初はションベン臭いパンパン崩れ(?)という風情だが、徐々に強い意志で汚穢から脱出を図ろうとする意思的な人間として迫り上がってくる。長門裕之が彼女の引き立て役に見えてしまうのが気の毒なほど。
■他の配役もユニークで、メインは今村昌平の大学時代の演劇仲間が揃っている。特に加藤武は『キューポラのある街』の理想的な教師から一転して粗野なヤクザものを自在に演じてイキイキしている。胃弱のヤクザを演じた丹波哲郎はまだ新東宝の貧乏ムードをそのまま引きずっていて、演技に幅がない。女優陣では南田洋子が飛び抜けてリアル。単なる熱演ではなく、激しい気性をちゃんと演じあげている。こんなに上手い人だったとは。中原早苗のヒステリー演技もすっかり完成の域で、なんだか名人の伝統芸能を見ているようですね。
■ただし、今村昌平の限界はクライマックスにあり、長門がどぶ板通りで機関銃を乱射したり、ブタの軍団が走り回ったり、といった活劇やスペクタクルの要素が演出できていない。ブタの大群の暴走にはスタッフも手を焼いたはずだが、本来なら特撮を使うべきところ。合成で切り貼りして数を増やしたり、作画合成を駆使したり、スペクタクルな画角で大きな画を作ることができたはず。イメージ的には後年大映で企画される『大群獣ネズラ』の先取りとも思える趣向なので、金田啓治に頼むべきだった。『キューポラのある街』だって、金田啓治が合成カットを手伝ってるからね。(実は、本作も合成がかかっているような粒状性のルックのカットがひとつあるのだが、真相は未確認)
www.nikkatsu.com

参考

キャメラマン、姫田真佐久の本領発揮のモノクロ撮影による傑作群。ここにはないけど、熊井啓の『日本列島』も凄いよ。
maricozy.hatenablog.jp
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