宝塚歌劇雪組公演『幕末太陽傳』

基本情報

幕末太陽傳 ★★★☆
脚本・演出:小柳奈穂子 作曲・編曲:手島恭子、装置:大橋泰弘、照明:勝柴次朗
出演:早霧せいな、咲妃みゆ、望海風斗ほか

感想

■おなじみの川島雄三の名作『幕末太陽傳』を宝塚でミュージカル・コメディとして翻案した本作はコロナ禍でプチ籠城中の身にはいい塩梅の賑やかで華やかなお気楽時代劇で、意外にも上出来。もともとのお話が落語ネタの組み合わせなので、そこから大きく出ることはないが、原作映画がモノクロ映画だったから、華やかな色彩と照明だけで、落ち込みがちな気持ちも慰撫されるところがあるなあ。舞台装置は派手にはできないけど、場面転換は豪快だし、さすがにスケールが大きくて素朴に気持ちいい。

■深刻な肺病で品川に死ににやってきたはずが、そこに息づく庶民たちのバイタリティにあてられて死ぬ気がしなくなってゆく佐平次を早霧せいなが終始軽妙に演じるから、あまり死にそうな深刻さはない。それでも大きな時代のうねりの中で地面を這うように生きるしかない庶民の意地を描いたところに原作映画由来だけでない宝塚歌劇の伝統を感じる。

■ドラマとしてはそれほど優れたものではないのだが、本作の賑々しい楽しさは楽曲の魅力によるところが大きい。そもそも宝塚歌劇って、ドラマは上出来なのに、楽曲がいまいち冴えないという作品が少なくないし、単に曲想が古いというものもある。ところが、これ楽曲が圧倒的に素晴らしい。手島恭子という宝塚歌劇所属の作曲家はなかなかの逸材だ。

■手島恭子は明らかにアニメや特撮の楽曲から影響を受けており、さらに昭和時代の劇伴に関する造形も深いと見た。例えば渡辺宙明田中公平の楽曲を誰しもが思い出すだろう。

■長州グループが革命を歌う楽曲は戦隊シリーズ宇宙刑事シリーズの主題歌に曲想がそっくりだし、盆踊りの場面の楽曲は『サクラ大戦』の有名な名曲を思い出すに違いない。しかも編曲と熱い演奏が豪勢なので、楽しいことこの上ない。さらに早霧と咲妃の掛け合いの場面はまるで裕次郎とルリ子の日活ムードアクションのデュエット曲の塩梅で、素晴らしく的確な職人仕事。さらに、咲妃の独唱は短い場面だが、最近のハリウッド製ミュージカルの例えば『シカゴ』や『ドリーム・ガールズ』の呼吸でぐいぐいと下層階級の女のしぶとさを歌い上げる傑作楽曲で、圧巻の見せ場。咲妃さん凄いですわ。作曲家の引き出しの多様さに舌を巻く。手島さん、もっと話題になってもいいと思うがなあ。

参考

この前宝塚歌劇を見たのは、1年半前ですね。もっと間が空いている気がしたが、意外と観てるんだなあ。いや、もっとたくさん観たいんだけど!
maricozy.hatenablog.jp

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