感想
■なにしろ実質80分程度の映画なので、所々に強引でご都合主義的な急展開が見られるのだが、とにかく楽しい方にお話が転がるので、全く気にならないし、クリス・サンダースとディーン・デュボアの名コンビによる天才的な発想の饗宴にひたすら打ちのめされる。
■父母を事故で亡くして残った姉妹が崩壊寸前の家族を繋ぎとめようとするとき、破壊のために創造された邪悪な人工生命体が宇宙から降ってくる。破壊しかプログラムされていないはずの試作品626号がオハナ=家族を知ってゆくというお話を、50~60年代の怪物映画の記憶とエルビス・プレスリーの楽曲をモチーフとして描かれるという、超絶な発想力と表現力が誰の眼にも明らかな傑作。
■とにかく地球上で犬に擬態するスティッチのアニメが超絶に可愛くて、動物好きにはもう堪りません。冒頭とクライマックスの宇宙空間や空中での活劇場面も実に快調で、今観ると技術的には発展段階だが、見せ方がとにかく上手いし、アラン・シルベストリの楽曲も見事なので、何も不足を感じない。例えば巨大な宇宙船が山肌を舐めるように飛んで、翼の切っ先がこれから舐めようとするアイスを弾き飛ばす場面なんて、技術よりも、演出そのもので機体の大きさを実感させる凄い見せ方。
■宇宙に一人ぼっちの人工生命体スティッチが最後に家族を見つける場面は、お約束どおりの結末なのになんでこんなに感動的なのかという落涙の名場面。宇宙人に回収されそうになるスティッチをリロがとっさの機転で連れ戻す場面も、実はちゃんと伏線が張ってあって、これぞ文字通りの伏線の使い方。最近の観客は、伏線と「布石」や「謎かけ」を混同しているのだが、本来は別物。伏線は気づかないように付置して、意外なところで思わぬ意味合いで回収されることでドラマに説得力をもたらすから伏線という。伏線の回収とは「謎解き」とは違うのだ。本作の2ドルの件などはまさにそれで、別に謎が解かれるわけではなく、ドラマの展開に貢献するのだ。
■クリス・サンダースとディーン・デュボアの名コンビはこの後、『ヒックとドラゴン』というこれまた本作を凌駕しかねない傑作アニメを製作するが、第二作『ヒックとドラゴン2』は本国で興行的に問題があったらしく日本では劇場公開が見送られて、ビデオスルーになっている。と思いきや、三作目の『ヒックとドラゴン 聖地への冒険』が、なんと今月に正月映画として公開されますよ!今知ったよ!