日本のいちばん長い日 ★★★☆

日本のいちばん長い日
2015 スコープサイズ 136分 @Tジョイ京都
原作■半藤一利 脚本■原田眞人
撮影■柴主高秀 照明■宮西孝明
美術■原田哲男 音楽■富貴晴美 VFXスーパーバイザー■オダイッセイ
監督■原田眞人

岡本喜八の代表作を何故か松竹で再映画化した終戦70周年記念映画。岡本版は群像劇だったが、本作では昭和天皇、鈴木首相、阿南陸相を中心として、東條英機の動きを盛り込んだところに異色がある。というか、一番のエポックメイキングは、昭和天皇を正面から堂々と描いた、しかも一部創作を含めて、というところで、日本映画がついに一線を越えたということを明記しておく必要がある。

■実質的に主役は昭和天皇で、戦争を終結させるために鈴木貫太郎を首相に据えて内閣の不一致を自身の聖断で乗り越えようと企図する姿を描く。これは大胆な作劇で、ここまで昭和天皇の活躍を直接的に描いた日本映画は過去にない。しかも、本土決戦を企図する東條英機の進言を、ナポレオンの例を引いて激しい口調で叱責する場面が大きな見せ場となっており、日本映画がついにここまで来たかという感慨を抱かないわけにはいかない。

原田眞人の作、演出なので説明的な台詞やナレーションは無く、ナチュラルな雰囲気描写を重視するので、細部がわかりにくいのは確かだが、上記の中心人物の人間性がさりげなく描写されるところは過不足が無く、非常に魅力的な人物像が結実している。そこは原田眞人の持ち味が生かされた点で、山崎努がいいのは当然として、モックンが良すぎるのがある意味問題になるレベル。昭和天皇の独特の口調や口癖を完全に昇華して自分の演技プランに落とし込んだ感性は天性の才能を感じさせる。

■撮影は松竹の京都撮影所を中心に行われたようで、美術も照明も松竹京都の実力派中堅スタッフで、撮影は名手・柴主高秀なので、いかにも大作らしい豪華なルックを実現している。美術や装飾の見事さは、関西各所でのロケセットの効果が大だったようだが、正直いって、岡本版のザラザラしたドキュメンタリータッチのモノクロ撮影よりも質感は高い。この映像美だけでも2時間楽しめる。

■ただ、究極的に大事なことを天皇に丸投げにするお話という印象は拭えず、そのことをよきこととして描いている点に違和感はある。そのことが戦後にどんな問題を引き起こしたかという批判的な視点がないと困るのだ。本作は昭和天皇の立場から終戦工作を描いたが、天皇に対する複雑で苛烈な国民一般の想いを塗りこめた『大日本帝国』のような深みや切実さが無いのは事実だろう。単に年寄りが喜ぶ水戸黄門的なお話として消費されてしまう恐れがあるのが本作の問題だと思う。

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