俺の眼を見ろ、何も言うな!『白鯨との闘い』

基本情報

In the Heart of the Sea ★★★☆
2015 ヴィスタサイズ 121分 @APV

感想

メルヴィルが小説『白鯨』を書く際に取材したエセックス号の実際の沈没、遭難事件の顛末を描いた、一応実録映画ということになる。正直なところ2/3くらいまでは大味な海洋冒険映画に終始してしまうのかと心配したが、最終的に非常に映画らしい映画、これぞ映画の話術というオーソドックスなアメリカ映画になっている。さすが、ロン・ハワードと感心しました。

■ナンタケット島の名士出身の船長と外地から流れ着いたたたき上げの一等航海士がどんな対立とドラマを繰り広げるのかと思いきや、案外ドラマは淡白であまり深堀の進展をみない。しかしこの映画の本当の見せ場は、白鯨にエセックス号を轟沈させられた後の漂流の描写にあるのだった。小説をもとにした『白鯨』は巨大な白鯨との一騎打ちがクライマックスになるが、この映画の真の狙いとテーマはその後に明かされる。だから、海洋冒険映画の部分は非常にスピーディでやたらと快調なのだ。この映画、実は海洋アドベンチャー映画ではなく、漂流映画だったのだ。

■さらに過酷な漂流に加えて、白鯨は悪魔のように執拗に彼らを追い詰めて狩る。しかしその凶暴さには意味づけがあり、そのことをクライマックスで主人公は白鯨の眼から悟ることになる。このあたりが反捕鯨国ならではの甘さにも感じさせるが、映画の構成としては実によくできているから、納得せざるを得ない。主人公たちは地獄のような漂流を経ることで、神の与えた試練の意味を知ることになるのだ。鯨を狩ってその身体を資源として利用することと、漂流中に彼らが生き延びるために経験する残酷な試練が対置されるという構築の妙。これがずれなければ、この映画の成功は確実だったわけだ。

■映画のラストで地下から石油が沸いたことが提示され、鯨油の時代が終わったことをサラッと示すあたりも実に心憎い仕掛けで、ロン・ハワードの職人芸でテンポよくお話がスムーズに進んでゆくのでなんとなくサラッと観られてしまう映画だが、非常に普遍的で重いテーマと時事的なテーマを包含した巧妙な映画なのだ。


参考

そういえば最近ロン・ハワードの映画って観てなかったんだなあ。直近でこの映画ですよ。これも実に良い映画で、オーソドックスで誠実な映画。
maricozy.hatenablog.jp

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