小さいおうち ★★★

小さいおうち
2014 ヴィスタサイズ 136分
MOVIX京都
原作■中島京子 脚本■山田洋次平松恵美子
撮影■近森眞史 照明■渡邊孝一
美術■出川三男、須江大輔 音楽■久石譲
VFXプロデューサー■浅野秀二 VFXスーパーバイザー■鹿住朗生 特撮スーパーバイザー■佛田洋
監督■山田洋次

■戦前から戦中になけての高台のお洒落な家で起こった奥様の不倫事件の顛末と小さな秘密を当時の女中の視点から回想するささやかな物語を東宝撮影所のステージセットを駆使して地味ながら丁寧な映像でこってり描く、小品ながら贅沢な映画。山田洋次ならではの贅沢体験ですわ。

■若奥様の松たか子に対する女中の同性愛的な思慕とかお金持に対する憧憬とか職業意識が綯い交ぜになって、終盤に小さな出来事を発生させることになるが、その秘密そのものは大したものではないし、終盤の語り口はあまりスマートなものではない。戦争に向かう日本の一般家庭の空気感についていちいち批判を入れながら検証する、回想形式に積極的な意味合いを持たせようとする作劇はかなりの効果を挙げているが、終盤のバタバタした収拾はいささか興ざめ。もっと余韻のある締めくくり方があったはずだが。

■女中役の黒木華は非常に稀有の逸材なので、今後事務所は丁寧に育ててほしい。リアルな女を演じられるベテラン女優になってくれそうなので、期待大。脇役で光っていたのが室井滋で、的確な脇役演技というものを久しぶりに堪能した。往年の浪花千恵子の立ち居地をほとんど完璧に演じきっていたので驚嘆した。やればできるんだ。しかし、吉岡秀隆がこうした役を演じるとコントに見えてしまうのは困ったことだ。もっと純粋に色気を感じさせる男優にすればよかったのに。

■全編にVFXは結構多用されているが、東京大空襲焼夷弾で小さい赤い屋根のおうちが焼失するカットにミニチュア特撮が使用されている。たった1カットで、リアリズムではなく、イメージシーンとして描かれるが、これを特撮研究所が担当し、佛田洋が特撮監督ならず特撮スーパーバイザーとしてクレジットされている。正直、山田洋次の演出意図としてはもう少し違った見せ方があったという気もするが...

■最終的には、山田洋次は今回何がやりたかったのか、掴みかねた感じが残った。戦争に突入してゆく時代の空気を今現在の日本の姿に重ね合わせて警鐘を鳴らすならそれは立派なテーマだが、そこにしっかり着地もしていない感じだし、隠微なエロを狙うにしても、現代パートがその足を引っ張っていると感じた。やっぱり、現代パートは要らない気がするなあ。ステージ撮影の映像も立派だし、倍賞千恵子の演技は非常に優れたものだが、やはり焦点がボケてしまった気がする。

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