■それ以上の種明かしはさすがに控えるが、今日ではとても成り立たない犯罪ドラマで、たぶん当時ですら無理筋だっただろう。増村らしい恋に狂った女の名セリフがあるのだが書けないなあ。ああ書きたい。
■何しろこの頃は怪奇ドラマの作り方が広く映像職人に共有されていた時代なので、モノクロ撮影で怪奇ムードを表現するにはどうすればいいのか、公式通りにできている。本作はあまり照明にも構図にもこだわっていはいないが、すらすらと自然なキャメラワークのなかにハッとする美しい瞬間があり、目を見張る。
■田島和子の幸薄そうなフォトジェニックさも際立つ。白いワンピースに胸元に赤い花をあしらった姿で、深夜にマンションの非常階段を上り下りするだけで怪奇で幻想的な美が現出する。病院の死体置き場も定番の荒涼ムードでいいし、露口茂が憔悴しているように見えないこと以外は実に素晴らしい。一方で、往診の看護婦を田島和子が漫画みたいなこん棒で殴って気絶させるという爆笑シーンもあって、まったく油断がならない。
■田島和子は『怪奇大作戦』の『美女と花粉』にも出演していて、草野大悟の奥さんだったらしい。自由劇場から六月劇場へと移っているから完全に夫婦一緒に動いているんだね。
■撮影は佐藤正、照明は内藤伊三郎、美術は井上章。
参考