吸血鬼 ★★★☆

グリング 第17回公演 吸血鬼
NHKBS2 ミッドナイトステージ館
2009年 青山円形劇場
作・演出■青木豪
出演■杉山文雄高橋理恵子みのすけ平田敦子中野英樹、辰巳智秋

■ひとりの女がボロアパートで孤独に死んだ。かつて大学の同級生だった男が、頼まれた脚本のネタを求めて死の背景に迫ろうとし、実家にも職場にも居場所を失った彼女が客引きをしていたと推察する。久しぶりに再会したあの夜、彼女を無理にでも自分のアパートに泊まらせておけば、こんなことにはならなかったのではと悔やむが・・・

■東電OL殺害事件に想を得た青木豪が、狂言回し(?)の脚本家に自虐的な意味づけを施し、人間の孤独という毒に迫った秀作。非常に面白い。青山円形劇場の独特の舞台空間を生かした抽象的なセットは、役者たちの自在な出入りが、観客と舞台の境目を曖昧にし、ヴィヴィッドなリアリティを生み出している。展開にも台詞にも難解なところは無く、全てがスピーディで、現代演劇としては、非常に馴染みやすいものだ。

■ラスト近くで物語が裏返され、死んだのは本当は誰だったのかと重層化して見せるのは、「銭ゲバ」の最終回をちょっと思い出したよ。母乳が血液からできていることを引いて人間の存在自体が吸血鬼だという見立てには、深く納得させられた。「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」などを思い出しても、人間は人間にとっても、世界にとっても吸血鬼なのだと感じ入った次第だ。

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