誰がために ★★★

誰がために [DVD]

誰がために
2005 ヴィスタサイズ 97分
DVD
原案■日向寺太郎 脚本■加藤正人
撮影■川上皓市 照明■尾下栄治
美術監修■木村威夫 美術■丸尾知行 音楽■矢野顕子
監督■日向寺太郎

■妻(エリカ)を少年(小池徹平)に殺された写真館の主人(浅野忠信)は、幼馴染の親友の妹(池脇千鶴)に慰められながらも、復讐の念を押さえ切れないでいた。二人は亡き妻の故郷に向かい、彼女の想いを探し求めるが・・・

■少年犯罪の犯罪被害者遺族という時事的なテーマを設定しているのだが、問題を社会派的な視点で追求するのではなく、三池崇史の「太陽の傷」のようにサスペンスとアクション映画に昇華させるのでもなく、亡き妻を追悼するという形で感情化しようと試みた人間ドラマ。「雪に願うこと」と「日本沈没」の脚本で感心したベテラン加藤正人のオリジナル脚本で、監督は黒木和雄(本作の特別協力でもある)の助監督出身の日向寺太郎(ひゅうがじ・たろう)という人。

■妻が不慮の死を遂げたあと、残された夫が彼女の求めたもの、彼女の想いを探して彷徨する物語といえば、もろに「ナイロビの蜂」なのだが、亡き妻の姿を”風”の中に発見するという文学的(?)な解決が用意されている。その意味では、「ナイロビの蜂」同様に亡き妻に対する恋愛映画であり、その道筋を同行させられる池脇千鶴は遂に報われないのだ。浅野忠信を中心として、エリカと池脇が三角関係を構成し、エリカの死後も彼の心はエリカのもとを離れようとしないというメロドラマが仕組まれており、少年犯罪云々というギミックは、文字通りギミックの位置に止まり、真正面からは扱われていない。特に少年犯罪である意味は希薄であるようにも思える。

■本作の弱点は多分そこにあり、大人の三角関係を描いたメロドラマとして観れば、川上皓市の手持ちキャメラによる微妙な浮遊感と矢野彰子の素直に美しい劇伴のおかげで、かなり高度な出来栄えである。しかも100分弱に収めるというあたりは、助監督出身らしい手堅さだ。製作はジャパンケーブルキャスト他。

■日向寺太郎はこの夏、実写版「火垂るの墓」が公開されるので、改めて注目されるはずだが、キャメラは引き続き川上皓市で、脚本は筋の通ったベテランの西岡琢也なので、かなり期待しているのだ。キャストには師匠筋の江藤潤原田芳雄まで参加しているようだ。



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