妻は告白する
1961 スコープサイズ 91分 DVD
原作■円山雅也 脚本■井手雅人
撮影■小林節雄 照明■渡辺長治
美術■渡辺竹三郎 音楽■真鍋理一郎
監督■増村保造
増村保造+若尾文子コンビの代表作で、両人のその後のキャリアを決定付けた記念碑的傑作。というのが公式評価なのだが、個人的にはあまり感心しない映画だった、という記憶がある。ただし、かなり以前に映画祭で眠い眼をこすりながら一度観ただけなので、今回やっときちんと見直すことができて幸せだ。
改めて見直すと、乗れなかった原因が判明。真鍋理一郎の劇伴が、その後の増村映画の常連、山内正、池野成、林光といった作曲家たちの王道メロドラマ音楽と大きく異なるせいだったのだ。というのも、劇の組み立てや、見せ場の構築、演技の質、全てが、その後の若尾文子とのコンビで生み出された増村映画の傑作たちのプロトタイプになっているのに、真鍋理一郎の音楽が理知的すぎて、その後の作曲家のように、若尾文子の燃え上がる情炎を甘美なメロディで沸きたてる方向に向かっていないのだ。しかし、馬淵晴子が若尾文子への共感を口にして見事に締めくくるラストのテーマ収拾の巧さが圧巻で、本作の傑作たる所以をやっと納得することが出来たのだった。
山根貞男はこうした若尾文子の姿を”狂人”と表現したが、この映画を見ると、それは”怪物”とも呼べるのではないかと思う。増村映画のヒロインは、恋愛の核心に触れることで呪われ、女だけが到達できる人間を超えた存在に変貌してゆくのではないか。その”怪物”の怖さと凄惨な美しさが凝縮されたのが、あの有名なずぶ濡れの和服で川口浩の会社に侵入する姿の人間離れした異様な存在感を放つ場面ではないか。
ちなみに、DVDの画質はかなりお粗末で、まずプリント自体の状態が良くないようだし、オーサリングも拙く、暗い場面などに、ブロックノイズではないが怪しげなマッハバンド状のもやもやが現われる。大映映画のDVDは大概、画質は良好なのだが、このDVDは画質としては完全にハズレの商品だ。確かにコントラストはきつめに設定されているだろうが、本来のフィルムはもっとくっきりしたモノクロ撮影のはずだ。名手小林節雄が泣くぞ。