赤い天使(Red Angel) ★★★

赤い天使
1966 スコープサイズ 95分
輸入DVD 
原作■有馬頼義 脚本■笠原良三
撮影■小林節雄 照明■泉 正蔵
美術■下河原友雄 音楽■池野 成
監督■増村保造


 昭和14年、天津の野戦病院に赴任した従軍看護婦西さくら(若尾文子)は、運命に導かれるように前線の兵士達を性的に癒すが、その兵士たちは次々と命を落としてゆく。さらに分院の地獄のような野戦病院に派遣されると、モルヒネ中毒の軍医岡部(芦田伸介)と愛し合うようになり、二人は応急看護班として最前線の隊に転進するが、そこは八路軍の脅威とコレラの蔓延が包囲する終末の地だった・・・

 増村保造の作品としてはあまり上出来ではなく、特にクライマックスが主演2人のメロドラマと八路軍の襲撃を待ち受ける場面のカットバックとなっているが、これがあまりサスペンスに結びついていないところが大いに足を引っ張っている。

 さくらのようにぱっと咲いてぱっと散ることを期して岡部とともに最前線の地獄に身を投じた西さくらがひとり生き残こる皮肉なラストは美しく、”赤い天使”が死神に他ならないことを示して秀逸な寓話ではあるのだが、戦争を扱った作品では「清作の妻」のほうが作劇としては上出来だし、極限状態下での異常な愛の形では「盲獣」のほうが鮮烈だろう。

 ただ、野戦病院で切り取られた手足が散乱する場面に端的に表現されたように、人間がモノとして扱われることが戦争の偽りの無い実相であることを打ち出したことは戦争映画の表現としては斬新であるし、本隊から孤立した前線部隊を軍医と看護婦が指揮して、ほとんど特攻的な二人三脚体制で突撃してゆく様は、国のためでも天皇のためでも父母のためでもなく、心中の道行きとして「曽根崎心中」を先取りするものでもあったのだろうし、芦田伸介の裸身に唇を這わせるラストは「夫が見た」の血みどろのラストシーンの再現でもあったのだろう。

 そういう意味では、この映画は増村流の変格戦争映画として「兵隊やくざ」や「陸軍中野学校」に連なる系譜のなかで捉えるべきなのだろう。

© 1998-2024 まり☆こうじ