感想(旧HPより転載)
関が原の戦いに豊臣方として参戦して一国一城の夢破れた武蔵(中村錦之助)が友人又八(木村功)を戦に誘った侘びを母親(浪速千栄子)に告げるため故郷の宮本村に舞い戻ると、役人の厳しい残党狩が待ち構えていた。追求の手を逃れるため、村人たちを手にかける野獣のような武蔵を沢庵和尚(三国連太郎)は千年杉に吊るし、己のちっぽけさを思い知らせようとするが、又八の許婚お通(入江若葉)は武蔵を不憫に思い、縄目を解いてやるのだった。
その後、沢庵和尚の計らいで姫路城の開かずの間に3年間幽閉された武蔵が、その間に学問を学び、人間の理性を身につけるまでを描く5部作の第1作。10年以上前に京都文化博物館で全作鑑賞して以来の本作だが、武蔵の激情の赴くままに暴れまわる前半部分が後の宮本武蔵の人間像と好対照をなして、おもしろい。
この頃の内田吐夢の演出はなぜかラストになると幻想映画になってしまうという変な傾向があり、この映画も例外でなく、武蔵の祖先が主だったという姫路城に幽閉された武蔵の眼前で城の柱から血が染み出し、うち滅ぼされた者達(汐路章!)が亡霊となって現れて武蔵に恨み言を述べるという能のような表現様式が取り入れられている。
しかし、クライマックスを武蔵の理性への目覚めというエピソードと設定したため、チャンバラ映画としての面白みには欠け、欲求不満を残してしまう。「ロード・オブ・ザ・リング」の1作目同様、この映画は大河ドラマの大いなる序章に過ぎないのだ。