老巨匠のアヴァンギャルドな問題作『恋や恋なすな恋』

基本情報

恋や恋なすな恋 ★★★
1962 スコープサイズ 109分 
企画:玉木潤一郎 脚本:依田義賢 撮影:吉田貞治 照明:山根秀一 美術:鈴木孝俊 音楽:木下忠司 協力:東映動画スタジオ 監督:内田吐夢

感想

賀茂保憲(宇佐美純也)の弟子の阿部保名(大川橋蔵)は門外不出の一巻「金烏玉兎集」を狙って蘆屋道満を担ぐ保憲の妻(日高澄子)の謀によって、恋しい榊(瑳峨三智子)を責め殺され乱心する。榊を求めて彷徨ううち、和泉の国で榊の妹の葛の葉を榊と思い込み親しむことに。「金烏玉兎集」を狙う一派によって矢に射られた老婆(毛利菊枝)を救う保名だが、それは狐の化身だった。老婆の孫娘は悪漢に切られた保名の介護を命じられ、葛の葉の姿を借りることに。。。

■という、簡単に要約できない複雑怪奇なお話は、人形浄瑠璃の『芦屋道満大内鑑』と清元の『保名狂乱』によっている。内田吐夢の古典芸能四部作(『暴れん坊街道』『浪花の恋の物語』『妖刀物語 花の吉原百人斬り』と本作)の最終作。なんともカルトな映画で、日本では橋本治くらいしか評価していなかった気がするが、逆に欧米では有名なのかも(?)

■第一幕は京都での天変地異を発端とする政略劇、第二幕は狂った保名の彷徨と葛の葉との出逢い、第三幕は狐との異類婚姻の話という、古典芸能ならではのなんでもありの盛りだくさん。そのなんでもありの貪欲さを、映画表現の多彩さで再現しようとしたらしく、一種の特撮映画ともいえる。第二幕の狐たちの活躍は、東映動画のアニメ(実写とアニメを組み合わせてアニメ合成ではなく、カットそのものが動画撮影された)によっているのだが、現在ならCGで描くところだろう。特撮の一種としてアニメを使ったとも考えられるところ。ただ、第二幕の狙いはファンタジックな様式美で、リアルな特撮映像ではなく、夢のような動画がふさわしいとの判断だろう。

■天変地異と大人たちのどす黒い政略が渦巻く第一幕から第二幕は様式美の世界に転調する、その部分がこの映画の最も充実した部分で、内田吐夢が思う存分ケレンに遊ぶ。保名の狂った幻想の世界(文字通りのお花畑?)から一気にロケ撮影の現実世界に転換する場面など、実に大胆な趣向だし、見事な効果。

■ただ、第三幕を舞台中継形式にしてしまったのは疑問で、日本映画って、もともとは歌舞伎中継だったよな、と日本映画の淵源に遡ってしまうのだが、その演出意図は十分に伝わらない気がする。ここで登場する白狐はアニメですらなく、舞台の小道具というのも、徹底した演出で感心するが、やっぱりこれじゃ舞台中継だよなあ。実際のところ、舞台を撮影して編集すればかなり立派な映画になってしまうのは、知る人ぞ知る不都合な真実(?)で、そのことを実践してしまった禁断の映画ともいえる。もちろん、演劇と映画では演技の質が違うので、単純にはいかないのだが。

■第二幕の狐の面をつけた狐たちの様式化された演技も違和感がないし、第三幕もこのスタイルで統一してほしかったというのが正直な感想。成功作とは言い難いが、第二幕の魅力には負ける。第一幕の政争の話も回収されないし、キネ旬データベースの梗概をみても、脚本からかなり改変されている可能性がある。依田義賢が書いているので、そこはちゃんと書いてあるはずなのでね。


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参考

橋本治の『完本チャンバラ時代劇講座』は必読の名著です。なんと、復刻されました!仕方ないなあ、買い直しますよ!

こちらの記事が非常に詳しくて参考になります。この記事読んでもらえば、上の感想は単なる蛇足です。。。
yomota258.hatenablog.com
内田吐夢って、意外と掴み所がないおじさん。
maricozy.hatenablog.jp
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