飢餓海峡 ★★★★

飢餓海峡
1964 スコープサイズ 183分
NHKBS
原作■水上勉 脚本■鈴木尚之
撮影■仲沢半次郎 照明■川崎保之丞
美術■森幹男 音楽■冨田勲 特撮■上村貞夫
監督■内田吐夢

■個人的に嗜好する3時間映画のカテゴリーに入るはずだが、インターミッションが入らないのが残念。これは初公開当時は長すぎるということで2時間40分程度に短縮されたバージョンが一般公開されたことと無関係ではないだろう。まあ、そもそも内田吐夢がハリウッドメジャーの製作する3時間映画なんて商業主義のこけおどしに過ぎないと思っていただろうから、真似するはずもないのだけど、個人的には途中に休憩が欲しいところ。絶対そのほうが10年の経過を体感的に感じることができるはず。

■とはいいながら、久しぶりに観るとやっぱり不思議な映画だった。たとえば『砂の器』などは誰が見ても非常に分かりやすいし、テーマも明快だし、演技の質も高いし、押しも強くて娯楽映画としては申し分ないできばえだが、ああした映画と比較するとこの映画の奇妙さが際立つだろう。あれはテーマ曲がせりあがって、はい、ここは泣くところですよ、どうぞ泣いてくださいと具体的な指示が入るような映画で、ある意味演劇的な作りになっている。一方、本作はそうしたお涙ちょうだいな場面は皆無、ひたすらハードな描写で構成される。そもそも主人公の三國連太郎人間性がほんとに掴みどころがなく、謎過ぎる。動機には貧困からの脱出という普遍的なものが据えられているが、肝心の貧困がどれほどのものであったかという描写が一切無い。『砂の器』ではハンセン病に対する差別の様子が点描されて強烈な感情移入を誘うのだが、本作にはそうした感情移入を促す要素が何故か無くて、捜査陣の報告で触れられるだけなのだ。

■一方、一夜の相手を務めた彼を慕い続ける左幸子の描写はかなり力が入っており、この映画の秀逸さは、主に左幸子の場面に負っている。だからそんな彼女を怪力で絞め殺す三國の残忍さが強く印象付けられるのだが、三國の内面については、実はあまり明快な表現がされていない。単に異常性格者というわけではないし、貧困による生活苦だけでも十分に納得できない得体の知れない何かを抱えた人物として造形されており、三國がそれを意図的には本能的にか変に曲解している節があり、ますます感情移入の余地の無い謎の人間像ができあがっている。そのよくわからなさを昔の映画評などでは『業』と言って済ませてしまっていたのだが、彼を駆り立てる『飢餓』感の正体は何に対する飢えだったのだろうか。

■本作はわざわざ16ミリフィルムで撮影して35ミリにブローアップして画質の荒れを狙ったのだが、この放送はかなり高画質で、その荒れが減ってしまっているのではないかと感じた。

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