インフェルノ 蹂躙

インフェルノ 蹂躙 [DVD]

インフェルノ 蹂躙 [DVD]

  • 発売日: 2021/05/07
  • メディア: DVD

基本情報

インフェルノ/蹂躙
1998/スタンダードサイズ
(99/5/4 中古V)
脚本・高橋 洋
撮影・村石直人 照明・高柳清一
美術・小林久之 音楽・トルステン・ラッシュ
監督・北川篤也

感想(旧ブログより転載)

 失踪した姉(立原麻衣)を捜す妹(白石ひとみ)に、姉を拉致して殺害した変態夫婦(岩松武、由良よしこ)の魔の手が延びる。言葉巧みに妹に接近した夫婦は、姉の恋人(嶋大輔)をストーカーと思いこませて、妹を仲間に引き入れようとしていたのだ。 

 高橋洋のいわゆる”グラン・ギニョル”なロマンポルノで、「蛇の道」や「露出狂の女」ほどではないものの、Vシネマの水準を超える力作。レンタルビデオ店でもあまりお目にかかれない作品ながら、Vシネマの年間ベストに入ってもおかしくない野心作といえるだろう。

 しかし、変態夫婦が若い娘を監禁して陵辱するというプロットはロマンポルノの定番で、小沼勝の「箱の中の女」などという激作もあるのだが、そのものズバリの性行為や残虐行為を描いてもAVにもスプラッター映画にも及ばないわけだから、映画の作劇としては自ずからストーリーテリングのサスペンスと、残虐な行為を直接描写せず、省略と間接描写によっていかにそのグラン・ギニョルな雰囲気を全編に漂わせ続けることができるかどうかにかかってくる。

 その点については高橋洋のホラー映画研究の成果が着実に発揮されて、語り口は高度に洗練されている。変態夫婦の行っているはずの行為は残虐無惨このうえないのだが、画面上に現れるのは大型冷蔵庫であったり、不気味な肉片(何の肉塊かわからない撮り方が巧い)にむしゃぶりつく大型犬であったり、妹が食べさせられるシチューであったりと、逆に言えば随分身も蓋もない描写の積み重ねではあるのだが、それが逆に映画全体に嫌な低周波信号を響かせ続ける。

 一方で、妹の部屋には変態夫婦が録音した姉の喘ぎ声が夜な夜な微かに流れ続け、まるで怪談映画につきものの女のすすり泣きのように、妹の神経を逆撫でしてゆく。このあたりの描写は高橋洋独壇場といったところだ。



 もっとも、そうした表現技法については、例えば往年の桂千穂の非道なロマンポルノのほうが、よりアクが強く凶悪で残虐なアイディアを含んでいたのではなかっただろうかとも思われる。(といいながら、ロマンポルノには間に合わなかった世代なので、かなり想像を含んでいるのだが)

 確かに桂千穂が脚本を担当した「暴行切り裂きジャック」とか「暴姦・レイプ25時」の長谷部安春の示した硬質なアクションや時にホラーな演出との共通点は多いように思われる。高橋洋の指向したものはもっと純粋にホラー寄りの演出であったのかもしれないが、北川篤也の演出は当初の予想以上に技巧的に健闘するものの、中田秀夫の研鑽には未だ至らない。

 しかも、ヒロインを筆頭に役者陣の弱体は如何ともしがたく、特に変態夫婦の妻役が由良よしこというのは少々きつい。ここだけは、顔だちだけで人間離れした女優が欲しいところだ。配役で成功しているのは、刑事役でラストを不気味に締めくくる石丸謙二郎くらいだろう。

 ロマンポルノでもホラー映画でもなく、明確に残酷映画を目指して、しかも特殊技術に頼らず、あえて残酷描写への規制の厳しかった時代の倫理コードに従う形で、ストーリーテリングによってそれを実現しようとする、やっぱりこれは実験映画の一種なのかも知れない。


参考

本作の脚本が収録されてますよ。当然『リング』とか『女優霊』とか『恐怖』も入ってますよ。

地獄は実在する: 高橋洋恐怖劇傑作選

地獄は実在する: 高橋洋恐怖劇傑作選

  • 作者:洋, 高橋
  • 発売日: 2018/02/09
  • メディア: 単行本
maricozy.hatenablog.jp
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