毒婦高橋お伝 ★★★☆

毒婦高橋お伝
1958 スタンダードサイズ 74分

原案■澤賢介 脚本■仲津勝義、中沢信
撮影■河崎喜久三 美術■黒沢治安
照明■折茂重男 音楽■渡辺宙明
監督■中川信夫

■明治初期の女犯罪者で、斬首された実在の女の実録をベースに自由に発想したエロ映画風の女性映画。エロといってもこの時代なので、直接描写はありませんが、直接描写があれば立派なロマンポルノになります。五社英雄あたりが全盛期に映画化すればぴったりはまっただろうね。

■しかし、この映画もかなりの秀作で、男運が悪く、金に困ったときに法を破ることにあまり抵抗がない、生きるためには仕方なかった女であるがゆえに、周囲には因果な男ばかりが寄ってきて、ますます彼女を不幸にしてゆく。色気で篭絡した警官には純な愛情を抱きながらも添い遂げられるわけもなく、心の頼みと考えた生き別れの娘は呆気なく病死し、あらゆる男たちへの復讐を誓う宿命の女。次から次へと色欲と金欲の不幸の連鎖で堕ちてゆく高橋お伝にチャンと感情移入できるから女性映画として立派に成立している。

■何分、中編映画くらいのランニングタイムなので所々の大胆な省略が大胆過ぎるのだが、もっと丁寧に各エピソードを描いていれば、傑作になったはず。たぶん、新東宝にしてはそれなりに大作で、美術セットは立派。クライマックスの屋敷にセットの無駄なでかさにも驚く。何かほかの映画と共用するためのセットじゃなかろうか。お伝の居宅あたりの情景も俯瞰ショットを多用して、東映でも大映でもない、新東宝ならではの情感溢れる美術セットが秀逸。

■人身売買組織の元締め役が丹波哲郎で、あまり台詞も無いのだが、大した貫禄。中川信夫なので、もっと怪談映画的なニュアンスで撮ることもできたはずだが、正統派の世話物として、女性映画としてきっちりと撮っていて、ラストは不思議な感動に包まれる。たぶんフランス映画を意識したのだろう。意外な良作ですよ。

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