■アメリカと中国という対立関係がそのまま持ち越されている未来の海没世界で、武力ではなく、あくまで言葉による交渉で全人類の幸福を追求しようとする下っ端外交官と(その人工知性体の相棒)の葛藤を描き、現在の世界情勢に対する戯画にもなっているし、文明批評にもなっている、立派なSF小説。
■しかも、この大規模な海没世界ですら暫定的な環境変異であって、近い将来にホットプルームの大異変が起こると、ユーラシア大陸は裂け、プルームの冬は全生命の絶滅を招くことがわかると、人類は「L計画」(伊福部マーチ!じゃないよ)を発動する。永らく凍結していた深宇宙開発の再開を決定するのだ。
■気宇壮大なSFの妙味と、海洋世界の官能的な魅力を幻視するユニークな着想がなんといっても、読みどころ。海面上昇で日本列島は日本群島になっている。日本の特に西南部はそもそも「海の民」との交流で出来上がった国柄だから、再び日本は海に向けて開かれることになる。その思考実験がユニークだし貴重。海上民は国籍を持たず、税金の負担もないから、どこの国籍を取得するかが問題になる。国家とは何か?国民とは?改めて根源的な人間社会の成り立ちの問題が提示されることになる。これがSFの思考実験。いいぞ、もっとやれ!
■ただ、こうした部分では、もっと過去の社会思想の歴史が参照されても良い気がするけどね。文明はまだかろうじて生き残っているし、過去の書物も全滅したわけではなかろうから。
■そして、続編がこれ。終盤で軽快にスキップされた約50年間を詳細に描くらしい。『真紅の碑文』は、もっと長いそうです。でもきっと読む。
参考
maricozy.hatenablog.jp河合穂高の2018年『海繭の仔』という奇特な海洋SF戯曲は、この小説の親戚だと思います。発想が似ていて、獣舟のアイディアが入っていると思う。
maricozy.hatenablog.jp




