日傘と発破(?)が織りなす前衛的メロドラマ『情炎』

基本情報

情炎 ★★
1967 スコープサイズ 98分 
原作:立原正秋 脚本:吉田喜重 撮影:金宇満司 照明:海野義雄
美術:梅田千代夫 音楽:池野成 監督:吉田喜重

あの頃映画 「情炎」 [DVD]

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感想

立原正秋直木賞受賞作『白い罌粟』という小説の映画化だけど、松竹は配給だけで、映画の製作は現代映画社が担当している。おかげで明らかに低予算映画で、ほぼロケとロケセットだけで撮られている。ヌーベルバーグというよりも、文藝エロス映画を期待されていたのだろう。一種の文藝ロマンポルノであり、実際、後年の日活ロマンポルノのお手本にされたのではないか。
■多情な母(まさかの南美江!)の事故死のあと、母の元情夫(出た!木村功)の彫刻家に接近する娘((人妻)茉莉子です)は導かれるように岬の洋館で逞しい土工(悦史!)に身をかませる。。。というプロットだけで、まったくロマンポルノですが、ヌードは出ません。エロス要員のしめぎしがこも脱がないし、岡田茉莉子は当然のこと、肌を見せない。かわりに高橋悦史がもろ肌脱ぎます!
吉田喜重のお馴染みの現代音楽的な不協和音の伴奏に沿って、一人の女の性と人格の目覚めが描かれる。それは憎み合う夫との夫婦生活に疲れた欲求不満のはけ口にも見えるし、個としての人格の励起にも見えるし、そうした人間心理の描写ではなく、前衛的アートの見本市にも見える。実際のところ心理的なメロドラマとしてはあまり説得力がないので、前衛的映像の展覧会に見えてくる。
■いつものように映像は全体に白っぽく、当時の大映とか日活の職人が作りこんだ諧調豊かなグレトーンや艶やかな闇とかがこってりと乗った贅沢なモノクロ撮影の重厚さとは根本的に異なり、もっと即興的でドキュメンタリーなルックだ。
■特に切れ味が鋭いのは、彫刻家を訪ねて採石場に足を踏みれた茉莉子はトレードマークの日傘で静かに歩いているのに、その背景では発破のダイナマイトが盛大に爆発しているというシュールな場面だろう。当然爆発音はオミットされ、人妻茉莉子の心象風景として何か大きなものが静かに崩れ落ちているわけだが、観たこともないトリッキーで豪快な映像だ。当然特撮でも合成でもなく、実写撮り切りなのだ。吉田喜重、なに考えてるんだ...(続く)

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