おろち ★★★★

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おろち [DVD]
おろち
2008 ヴィスタサイズ 107分
MOVIX京都(SC2)
原作■梅図かずお 脚本■高橋洋
撮影■柴主高秀 照明■蒔苗友一郎
美術■山崎秀満 音楽■川井憲次
VFXプロデューサー■大屋哲男 VFXスーパーバイザー■田中貴志
監督■鶴田法男

■こ、これは、傑作じゃないか。絶対に映画館で観ましょう!それにしても上映劇場の少なさはなんとしたことだ。京都ではMOVIX京都しかやっていないし、滋賀なんて1館も公開されていない。何ヶ月かすればRCSが滋賀会館で見せてくれるに違いないが、こんな傑作をかける映画館が無いなんて。
■物語は、おそらく原作漫画にかなり忠実ではないかと想像する。なんとなく、昔立ち読みしたようなおぼろげな記憶もあるのだが。しかし、なんと言っても60年代怪奇映画にここまで忠実に忠誠を誓った映画を見せられると感動するしかない。ホラー映画でも恐怖映画でもなく、怪奇映画。それがこの映画を理解するキーワードだ。冒頭に赤いフードつきのマントを羽織って登場するおろち(谷村美月)の姿は、「赤死病の仮面」のヴィンセント・プライスそのものだ。
■単純なショックシーンは必要最小限に止められ、グロテスクな作り物も最小限、洋館に住む美しい姉妹の幾重にも折り重なった嫉妬心を心理劇として提示する。映画女優の美貌が崩れるとき、どんな悲劇が巻き起こるかという観察が、昭和25年と昭和45年を舞台に展開される。
■とにかく圧巻なのは、美術と装飾の凄さ。当初、洋館はロケセットが想定されたが、東映東京撮影所にセットが建築されたという。最近の日本映画の美術としてはダントツに優れたセットである。さらに、その調度類を含む装飾が日本映画離れしたセンスの良さを示す。低予算映画であるはずなのに、この映像の充実度はどうしたことか。製作費がいくらかかっているのか知りたくて仕方ない。日本映画が標準的に備えるべき映像のスケールと質感を、この映画が代表して示していると思えるからだが、4〜5億円程度あればここまで作りこめるのだろうか。
■そこに輪をかけて凄いのが柴主高秀のキャメラで、本年の最優秀撮影賞は本作で決定である。先週の「超ウルトラ8兄弟」のデジタルビデオ撮影の色調の酷さと比べると、やはり映画表現におけるフィルムの表現力はけた違いという気がする。こってりと肉厚な色合いを基調として、昭和25年と昭和45年で若干の変化をつけた色彩設計も的確。日本映画の標準的な透き通った感じのフジフィルムによる素直な色彩表現ではなく、コダックフィルムによるハリウッド寄りの表現なのだろうが、非常に挑戦的な画作りである。
■さらに凄いのが木村佳乃の、ほとんどひとり舞台という感じの激しく変転する女の心理描写をアクション映画的に表現した演技力とその存在感の大きさだ。対する中越典子は近年とみに意欲的な女優として頭角を現してきたが、ここでも猛ける木村佳乃と対照的に静の役柄を着実に演じる。彼女の持ち味は、あの特徴的な顔立ちの非日常性にあり、こうしか怪奇映画には打ってつけ。しかもその子供時代を演じる子役が顔立ちの特徴をうまく引き継いでおり、それだけで怖い。もちろんおろち役の谷村美月は完璧。彼女のアイドル映画としても満点だ。川井憲次の劇伴は増村映画の山内正や池野成を思わせる重く陰気でありながら叙情的なメロドラマ音楽で、これにも感激した。こんな引き出しもあったとは。そうそう、谷村美月が歌い上げる劇中歌「新宿鴉」は傑作。シングルカットしておくれ。
■なぜか「映画秘宝」(立ち読み)の紹介記事では147分となっているのだが、そんなに長くないよ。ディレクターズカット版が存在するということなのか。或いは「映画秘宝」は映画を観ずに紹介記事を書いたのか?
■ちなみに、本作は「明日への遺言」「火垂るの墓」に続くテレビ東京の「シネマトリップ to SHOWA」のうちの一作である。そんなこと観客は誰も知らないのだが、実はひっそりとシリーズ化されているのだ。というか、強引だなあ。(なんと『花は散れども~石内尋常小学校』も含まれる!)
■製作は東映ビデオ、テレビ東京東映ほか、制作はセントラル・アーツ。