『ひみつの花園』

基本情報

ひみつの花園(’97)
脚本・矢口史靖鈴木卓爾
撮影・岸本正広 照明・蝶谷幸士 音楽・矢倉邦晃
監督・矢口史靖

感想(旧HPより転載)

 お金にしか興味がない銀行員の主人公・咲子が銀行強盗の人質にされ、5億円の詰まったトランクもろとも富士の樹海の地下水脈に呑み込まれるシーンを、わざと不細工に作ったマネキンを使って撮影し、教育テレビの理科教室で使う地層標本のような地面の切断面を見せるミニチュアとも呼べない代物を使って表現してみたり、さらにはアメリカかカナダ辺りの森林を空撮した実景フィルムに「モスラ」特撮班から借用した(由緒正しい)森林のミニチュアセットの移動撮影を繋いで富士の樹海と称したり、いきなり冒頭から狙いに狙った作為的なボケを連発する矢口史靖に見事にはめられた。これを観ずして平成9年の日本映画を語ってはいけない。

 「学校の怪談」シリーズでは遂に一度も魅力を感じることができなかったあの西田尚美を見事に開花させ、日本の映画女優のボケ演技に新たなる地平を切り開いたその勇敢な姿勢には惜しみない拍手を送りたい。西田尚美に主演女優賞を!

 社会派映画の、そして大作映画の顔、内藤武敏多摩川大学地質学教室の森田教授のボケぶりも「花いちもんめ」の千秋実を凌ぐ(ってちょっと意味が違う)壮絶さで、新劇俳優の捨て身の役者魂を見た。頭髪が後退し、白髭を蓄えて、痩せ細った内藤武敏の変貌は痛々しくも爽快だ。その演技の枯れぶりはきっと映画(ただし特殊な)の出演依頼を殺到させることだろう。

 また、近年”特撮姫”状態が深く静かに進行中の田中規子が咲子の妹を演じていることも見逃してはならない。お姉さんよりも色っぽい妹なのだなこれが。

 お金にしか興味がなく、知り合った森田研究室の助手・利重剛(良い役者だ!)とも決して恋愛関係などにはならない咲子の行動にオタク世代の生き方を前向きに捉えた矢口史靖には、「木村家の人々」の屈折は微塵も無い。出色のコメディ映画であり、青春映画でもある。矢口史靖の次回作に期待大だ。

 それにしても、巻頭の富士の樹海にポッカリ空洞が空いているミニチュアカットは「ガメラ対ギャオス」の同様なカットにそっくりだし、咲子が借りるアパートの窓の外側には簾がだらしなくかかっていて「ある殺し屋」のアパートにそっくりだ(ただし色は違う)。矢口史靖は日本映画マニアか?
 (98/5/8 V ビスタサイズ

コメント

(2023/5/24記)
西田尚美って、前世紀末の一時期、東宝映画の顔だったのだ。だから『ゴジラ2000ミレニアム』のヒロインに抜擢されたわけ。でも意外と素材の良さが素直に映画に反映しない感があり、どこがそんなに良いの?って思ったけど、本作を観るとコメディエンヌの素質が腑に落ちる。

■一方、田中規子はとても良かったよね。『有言実行三姉妹シュシュトリアン』の雪子。いま思い出した。

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