『裸足のピクニック』

基本情報

裸足のピクニック(’93)
脚本・鈴木卓爾、中川泰伸、矢口史靖
撮影・古沢敏文、鈴木一博 音楽・うの花
監督・矢口史靖

感想(旧HPより転載)

 これを観ると「ひみつの花園」はこの映画の変奏曲であったことが分かる。人物設定から、見せ場のアクションのアイディアまで律儀に踏襲されている。ただし、物語はこちらの方が深刻であり、悲惨である。とはいうものの、矢口史靖の視線は常に前向きであり、「ひみつの花園」以上に狂ったコメディである。

 電車のキセルから始まって、ついにはあまりの悲惨な境遇に精神に異常をきたしてしまいながらも自分を犯して妊娠させた男の子供を産むにいたる女子高生の転落の軌跡を追いながら、自分の意志とは関係なく始まってしまった自分の居場所探し、アイデンティティ探しの旅を紡ぎあげることになるのだが、どこにもない自分の居場所は自分で作ればいいと主人公に諭した、非日常に生きる謎の女すらクライマックスで否定されてしまう徹底したシニカルな視線が痛快だ。

 そして舞い戻った日常の中で、子供を自転車に乗せて相変わらず無感動にペダルを漕ぐ主人公の姿はじきにフレームから取り除かれ、キャメラは親にも増して不機嫌な子供の険しい表情に吸い寄せられる。深作欣二の傑作「人斬り与太・狂犬三兄弟」のラストシーンで犬のように飯を食っていた渚まゆみの、菅原文太による陵辱の種になる子供もきっとこんな表情をしていたに違いない。

 主人公が祖母の遺骨を道路にぶちまけ、道路清掃車に吸い取られてしまったため、他人の葬式に潜入し、あまつさえ通夜では火事を出しながら、火葬場で遺骨を盗もうとする展開や、主人公を誘って他人の留守宅に居座ってしまう謎の女が営むウラ稼業(売春斡旋)によって家族を崩壊させられた女子高生が、SMマニアの泉谷しげるに犯された直後の主人公を自転車で追いつめながらねちねちと罵詈雑言を投げかける長廻しのシーンなどは圧巻で、鈴木卓爾矢口史靖の才能の非凡さを見せつける。後者のシーンは、確かに溝口健二相米慎二のパロディとしても秀逸で、こうした突出したシーンは「ひみつの花園」にも見られない。

 その謎の女の辿る悲惨な最期は、三隅研次石井輝男並の壮絶さでまさに想像を絶するのだが、詳細はビデオで確認されたい。でもこのビデオ、普通のビデオレンタル店には置いていないよなあ
 (98/5/9 V ビスタサイズ?)

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