戯曲レビュー:今から、ママはわたしの敵よ!リリアン・ヘルマンの傑作『小狐たち』

■ワイラーの『偽りの花園』の原作となった有名戯曲で、基本的なお話は変わらないけど、アレクサンドラの恋人の新聞記者は出てこない。映画は、ちゃんとウキウキする場面を追加しているけど、戯曲はひたすらシリアス。なにしろ母ものでもあるので、普通だったら、ちょっと泣かせる場面も設けるものだけど、リリアン・ヘルマンはひたすら硬派で、安易なお涙頂戴は書かない。でも、長兄のベンと次兄オスカーの件は、かなりコミカルで、凸凹コンビのようにも見える。

■戯曲では南部の成金たちが、黒人たちを搾取するだけでなく、純粋な南部貴族の資産を略奪している様が強く描かれ、その犠牲者の象徴が、知力や胆力はないけど、上品で気の良いバーディー叔母なんだけど、そうした成金たちに対する批判もかなりストレートな台詞で語られる。映画ではそこがマイルドになっている。まあ、言いたいことは分かるようになっているけど、あまり露骨にやると赤と言われてしまうから。

■ラストの、「こわいの?ママ」は戯曲では最後のトドメの台詞で、特に夫を見殺しにした母親の罪悪感を喚起するというよりも、完全に敵に回った娘の反撃と未必の殺人の追求が怖いんでしょ?というニュアンスになっている。映画では、そこに若干のゴシック要素を加味して、映画的なアレンジを加えている。この場面のキャメラワーク良いのだ。(グレッグ・トーランドだから当然だけど)

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