ツレの勘助から「こころ」をとったのは誰や?『カーネーション』備忘録②:第7週から第10週

第7週「移りゆく日々」(演出:安達もじり)

昭和9年、父から店を変わるように言われた糸子は、新しい店でも立体裁断の技を編み出して女性客を獲得し、女性人脈ですっかり繁盛すると、いよいよ自分の店を出そうと決意する。父は反発するが、実は商売を畳むことを決意していた。

第8週「果報者」(演出:田中健二

父は店を糸子に譲ると祖母だけおいて他の家に移る。そのうち、周囲が縁談話で浮足立ちはじめるが、相手は旧知の職人川本勝(駿河太郎)だった。押し切られてまとまった縁談だが、祝言の式に仕事で遅れた糸子は、自分は果報者だと思うのだった。その後、あっという間に子をなした二人だが、昭和12年、ついに戦争の影が。

第9週「いつも想う」(演出:末永創)

昭和12年、幼馴染の勘助が日中戦争に招集される。次女が生まれ、オハラ洋装店は店員も増やして大繁盛するが、次女は小さなモンスターで誰も預かってくれない。年末のかきいれ時を乗り切ろうと、勝の実家に預けるが、気になって仕事が手につかない。そんなおり、勘助が戦地から帰ってくるが、「こころ」を取られてPTSD状態だった。

第10週「秘密」(演出:小島史敬)

昭和16年12月、太平洋戦争が始まる。安岡のおばちゃん(濱田マリ)からは、勘助に何してくれた?弱いものの気持ちにもなれ、「あんたの図太さは毒や」と絶交される。幸い仕事は忙しく、3人目を妊娠するが、昭和17年、勝に召集令状が届く。しかも、出征後に浮気の疑惑が持ち上がり。

雑感

田中健二演出の第8週が味わい深くて、周囲で勝手に夫を決めて、噂が街中に広まり、他人のみんながウキウキと浮足立つ様子が気持ちよく描かれる。糸子には恋愛感情はあまりなくて、職人気質なので、周囲がお膳立てしてくっつけてしまえば、あの二人なら大丈夫だろうと大人たちが判断して、実際、添ってみれば互いに違和感がない。この時代の結婚とか夫婦はそうして出来上がったということを美しく納得させるし、人間同士のカップルなんてそれで十分なのだ。そして、あっという間にどんどん子が生まれる。次女の出産は時間がかかり、食事もできないので、スルメをしがみながら陣痛に耐えるという第9週の凄い場面は強烈にキャッチーだった。

■幼馴染の勘助はもともと小心な男(へたれ)なので、糸子には頭が上がらないし、ちょっと元気がなさそうな素振りを見せると、糸子が今度いっちょ気合い入れたらな!と勝手に張り切るという関係。それは微笑ましい幼馴染の情景でもあるけど、一方で、糸子の気の良いがさつさは繊細さんを追い詰めることにもなるという第9,10週は、かなりシビア。

■戦地から帰還した勘助は、手足はなくさなかったけど、「こころ」をなくしてしまった。いつも気の良い安岡のおばちゃんが雨の夜に怒鳴り込んで来る場面は実に痛々しい。「今の勘助に、あんたの図太さは毒や」岸和田女のど根性と練達の洋裁技術で商売を成功させてきた糸子に対する妬みやそねみといった本音をつい漏らしてしまったおばさん。このあとどうなるのか。そして勘助は「こころ」をどこに落としてきたのか?イケイケの成功者糸子に対して、弱いものたちの視点からアンチテーゼを突きつける、渡辺あやの良心。市川森一しかり、優れた脚本家はこうした作業を欠かさないのだ。

■一方、吉田旅館の奈津(栗山千明)は父をなくし、母は虚脱してしまったので、遊び人に夫は頼らず、商売一途。糸子とは幼少から腐れ縁で、好きじゃないけど、互いに付かず離れずで縁が続く。父が身罷ったときには、強がっていたけど、安岡のおばちゃんのところでは気を許して泣き崩れるし、糸子はそれを伝え聞いて安堵する。そんな関係。そんな腐れ縁もまた友情と呼ぶんだろうね。だけど、今後きっと大波乱があるんだろうなあ。

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