コンプライアンス信仰批判?いまいち掴み所がない時代劇『碁盤斬り』

基本情報

碁盤斬り ★★
2024 スコープサイズ 129分 @TJOY京都
脚本:加藤正人 撮影:福本淳 照明:市川徳充 美術監督今村力 美術:松崎宙人 音楽:阿部海太郎 VFXスーパーバイザー:小坂一順 監督:白石和彌

感想

■脚本が加藤正人なので構成はがっちりしているし、乱脈ではないのだけど、結局何がしたいのかよくわからない、掴みどころのない時代劇だった。主人公の浪人(草彅剛)がドケチ商人(國村隼)と碁を通じて友情を交わすのと、浪人の過去の遺恨と仇討ちの話が二本立てになっていて、途中からお話が変わってしまうのでどこに行こうとしいるのか、観ている方は混乱するし、それでとくに面白くなるわけでもないので、何を見せられているのか困惑する。まあ、原案が落語「柳田格之進」なので、落語由来の要素が多いのだけど、消えた50両の顛末なんて、大真面目にドラマにしてもちっとも面白くない。素直にコメディにすればいいのに。

■草彅剛と加藤正人といえば、樋口真嗣の『日本沈没』のコンビで、あれは童貞臭い雰囲気と及川光博とのホモソーシャルな関係がわりと自然に出ていて悪くなかった(そんなこと言うのはうちだけだけど)のだけど、本作の草彅くんはちょっと困る。どんな人間なのか掴みかねる。

■福本淳がキャメラを廻すけど、これもかなり特異な映像設計で、まずは色調がかなり極端。アンバーだったり、グリーンだったり、リアリティとは違う狙いを、かなり派手に打ち出す。逆光も大幅に光線が滲むし、デジタルシネマカメラ撮影だからこうなるというわけではなく、敢えてそう使いこなしたようだ。美術も、往年の東映時代劇の井川徳道みたいに焦点を絞った舞台装置を駆使していて、狙いはわかるけど、クライマックスの対決場面なんて冗談かと思うくらい様式化を失敗している。なんで?

■肝心のちゃんばらも実に工夫がない演出で、これもかなり肩透かしで残念。ホントに完全にコメディとして再構築したほうが狙いが明快になるのではないか。配役も中途半端で、重要な役どころを中川大志とか奥野瑛太とか音尾琢真とかが演じていて、これ誰?状態。たぶんメインターゲット層のシニア観客はみんなそう感じたはず。一方で、郭の女将を演じる小泉今日子は、リアルに好演。実年齢相応に加齢した風貌をそのまま晒して、演技に貫禄を見せる。それでいいのだし、それでないと日本映画の演技人は枯渇するのだ。そうそう、『燕は戻ってこない』で好演する中村優子も1シーンだけ登場するけど、もっとキレイに撮ってあげようよ。『燕は戻ってこない』では、あんなに良かったのに。

■「水清ければ魚棲まず」の教訓はいいけれど、時代劇を作るときには、基本的に現代批評にするのがお約束というか必須なので、そこのところはしっかりと打ち出してほしいところだよね。行き過ぎたコンプライアンス信仰を揶揄するとか、たぶんそんな意義があるんだろうけど。違うか?


参考

白石和彌なら、こっちの方が良いですよ。テーマも明快。
maricozy.hatenablog.jp

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