要は赤いから問題なんだろ?ついに観た『いちご白書』

基本情報

The Strawberry Statement ★★★
1970 ヴィスタサイズ 109分 @NHKBS

感想

■1968年にコロンビア大学で実際に起こった大学紛争と籠城と警官隊による制圧の顛末を、舞台をサンフランシスコにうつして架空のウエスタン大学の事件として映画化した超有名作(日本では)。

■その割にはなぜか観る機会がなくて、なぜか日本ではDVDさえ発売されていない。カンヌでは評価されたけど、本国ではヒットしなかったというから、そのせいかも。日本では『「いちご白書」をもういちど』が大ヒットしたからいまだに有名だけど、アメリカではすっかり忘れられた映画かもね。映画ではロケ撮影に使わせてくれるところがなくて苦労したよ、と冒頭のクレジットで語られる。製作にアーウィン・ウィンクラーが入っているから、基本的に骨太ですね。

■士官の訓練施設を建設するために黒人たちが集う公園などを用地としてめしあげる計画に、大学の理事たちがしっかり関与してうまい汁を吸っていることに怒った大学生たちが大学をロックアウトして、学長室を占拠する。かわいい女学生に惹かれたボート部の学生が体制を裏切る形でロックアウトに参加するが、運動に誘った仲間の部員が警官隊に返り討ちにあって負傷すると、怒りに駆られるが、体制側は鎮圧計画を着々と準備していた。。。

■というお話で、お話自体は単純だけど、問題なのは、映画の作りがフィーリング映画になっていること。撮影手法も手持ちのラフなキャメラワークで、いかにも当時の自主映画っぽいアングルやキャメラワークで、それはそれでフィルム撮影の意図を超えた繊細なディテールが画面に映り込んでいて、今観ても新鮮ではあるけれど、問題なのは、作劇の部分だろう。撮影はラルフ・ウールジーという人だけど、かなり良い画を撮ってますよ。

■実際、非常に珍しい素材だし、時代の記録としても意義があるので、フィーリング映画ではなくて、しっかりと劇映画にして、叙情詩ではなく、叙事詩として描いてほしかった。後の人が観て、当時の問題意識と社会問題のありようと彼らのロジックと気持ちの部分が、ちゃんと分かるように。そこは本当にもったいないと感じるところだし、そこをもっと正攻法に描けば、クライマックスの警官隊と州兵の導入によるごぼう抜きの弾圧の酷さがちゃんと伝わるはずなのに、正直途中から冗長に感じた。大学当局とのやりとりとか駆け引きとか、大人と若者のロジックの食い違いとか、もっと叙事的に描いてほしいよね。こんな映画、空前絶後なんだから。ああ、もったいない。

■ちなみに、森谷司郎の『赤頭巾ちゃん気をつけて』も同じ時代の若者を描くフィーリング映画で、きっとこの映画の影響下にあると思っていたのだけど、『いちご白書』は1970年9月日本公開で、『赤頭巾ちゃん気をつけて』が8月公開なので、実は先なんだね。それに、映画としては『赤頭巾ちゃん気をつけて』の方が良いと思うなあ。何しろ、井手俊郎が脚本だから、劇映画としての骨格がしっかりしている。


参考

その意味では、渡辺あやの『ワンダーウォール』は現代の『いちご白書』であり、作劇としてはこちらのほうが上出来な部分があるのだけど、その真価を理解している人がどれくらいいるだろうか? 岡山天音若葉竜也など、いまや売れっ子の若手も出てましたよ。
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