1970年、公害と戦争の渦中に敢えて「人類の進歩と調和」を標榜する!その系譜はミャクミャクがちゃんと受け継げよ!『公式長編記念映画 日本万国博』

基本情報

日本万国博覧会 ★☆
1971 スコープサイズ 173分 @DVD
総プロデューサー:田口助太郎 脚本構成:田口助太郎、伊勢長之助、谷口千吉 撮影監督:植松永吉 編集:伊勢長之助 照明:山根秀一 音楽:間宮芳生 総監督:谷口千吉

感想

■1970年の前半に大阪千里丘で開催された日本万国博を記録した公式記録映画で、なにしろ公式記録なので、尖ったことはぜきず、どこまでも平板な記録映像の連続で、途中で休憩の入る3時間映画だけど、全部観るのにさすがに数日かかった。ちょっとした苦行でした。でも、劇場公開時は大ヒットしたらしいから、みんな万博行きたかったんですよ。

■見ごたえがあるのはオープニングとエンディングの大スケールの動員のあたりで、中盤の各パビリオンの紹介はひたすら退屈。だいたい、各国の踊りや祭りが紹介されて、当時はまだ物珍しさがあったのかなあ?あ、そうそうあとはファッションですね。各国のホステス(!)の皆さんのファッションは今見ると極めて未来的で洗練されています。50年前ですけどね。

■さらに今見ても凄いのは各パビリオンの建築物のデザイン、造形の凄さ、ですね。まさに未来志向の、デザイン優先の実験的な建物。全く実用的ではなく、維持はできないけど、見た目のインパクト重視のおもしろ建築。『ガメラ対大魔獣ジャイガー』ではついに万博会場に大怪獣が殴り込み、と思いきや予算の制約もありあまり踏み込めないし、大御所ゴジラだって東宝が一番シビアな時期なので、大阪上陸どころか映画製作すら実現せず、むしろ公害問題にターゲットを絞り込んで一撃必殺の殴り込みをかけた。なにしろ日本映画界が一番困難な時期なので、万博の異様な盛り上がりに比べて、映画界の反応は冷淡、とうかほぼ無視ですね。真正面から取り上げるだけの、体力がなかった。山田洋次スタインベックの『怒りの葡萄』を翻案した『家族』で万博の様子を点描したけど、まあ傍観者という感じですよ。世間は(特に関西では?)万博に盛り上がっているけど、そんなのいっときの風俗に過ぎないですよ、という姿勢。もっと批評的な描き方があっても良い気がしたけどね。

■さらに驚くのは「人類の進歩と調和」を掲げながら、ちゃんと公害の問題や、戦争の問題をパビリオンに織り込んでいること。なにしろ1970年当時、まだベトナム戦争の真っ最中だし、冷戦の真っ只中。当然無視はできない。すでに公害の存在も大問題となっていて、人類の未来に対する危機感も台頭していた。なにしろ、『ゴジラ対ヘドラ』は公開こそ1971年7月だけど、撮影は1971年の冬だったのだから、この映画の公開前なのだ。

■しかしというか当然ながら、当時の世相が万博をどう捉えたかは描かれない。学生運動もすでに衰退期に入っているけど、当然激しく反対していたはずだし、当時のテレビはどう伝えていただろうか。それにラジオの深夜放送などは、何を伝えていていただろうか。さすがにそのあたりのリアルを知らない世代なので、むしろそっちに興味は向かう。

■そしてあれから50年以上経って、2025年に大阪・関西万博が再びやってくる。ミャクミャク様は「いのち輝く未来世界のデザイン」のシンボルらしいけど、なんだか当たり障りのない茫漠としたテーマだなあ。「人類の進歩と調和」という格調高く巨視的で硬派な問題意識と比べると、ずいぶん無難な今風なテーマ設定だよね。ゆるふわだなあ。。。そして、今度こそ大阪万博を大怪獣が蹂躙する映画を観たいので、そこんとこよろしくお願いします!


参考

この映画はもちろん観てますが、古すぎて記事がないのだ!

野坂昭如らしい諧謔精神で批判的に万博を捉えると「葬博」になる。そんな発想がいまの必要なんだけど。
maricozy.hatenablog.jp
ジョン・フォードの『怒りの葡萄』て、いい映画でしたね。もちろん原作小説も良いんだけど。山田洋次は『家族』で翻案した。いい度胸だよね。
maricozy.hatenablog.jp

© 1998-2024 まり☆こうじ