ソマリア内戦勃発!そのとき韓国と北朝鮮の大使館は?呉越同舟の大脱出劇『モガディシュ 脱出までの14日間』

基本情報

Escape from Mogadishu ★★★☆
2021 スコープサイズ 121分 @アマプラ

感想

■1990年、首都モガディシュソマリア内戦に巻き込まれた韓国と北朝鮮の大使館員たちが、いかにして殺戮を逃れてケニアに脱出したかという、実録をもとにした超娯楽映画。もちろんれっきとした韓国映画だけど、モロッコで大ロケーションを敢行したハリウッド映画並みの作品。モロッコは、リドリー・スコットマーティン・スコセッシポール・グリーングラスなどが好んでロケに使うので映画スタッフも揃っているようだ。

韓国映画らしい緩い人間像やベタなギャグが前半で提示されるが、後半で徐々にシリアスに転じる。作劇としては意外と淡白で、あまりコテコテには作り込んでいない。それは監督のリュ・スンワンの意図だったらしい。それにいかにも感動的なお涙頂戴的な作劇もなく、終盤のまとめ部分も実に淡々と描くのは、その肝の座った演出に自信がある証拠だろう。イーストウッドとかベン・アフレックレベルの仕事だと思いますよ。

■もちろん、モガディシュで韓国と北朝鮮の大使は敵対しているけど、中国大使館に逃げ込めなかった北朝鮮大使館避難民の一行は、独自にドルで警護兵を雇っていた韓国大使館に保護を求めるしかない。もちろんいやいや受け入れたものの、参事官(チョ・インソン好演)は勝手に転向書を偽造しはじめるし、それを知った北朝鮮の参事官が猛烈に襲いかかる。韓国はイタリア大使館に脱出の打診をし、北朝鮮はエジプト大使館を頼るが、結局北朝鮮一行は韓国側と呉越同舟するしかなくなると、韓国大使はチャーター機に同乗させるために、彼らは転向済みだとハッタリをかます。このあたりも、取材事実に基づいて実録的に構築したものだろう。事実は小説よりも奇なり。

■でも、リュ・スンワンという監督の筋の良さは、人物造形と活劇精神のバランスの塩梅にあり、韓国大使の頼りなさや、書記官のドジっぷり、新任参事官の胡散臭さが、終盤の猛烈なカーアクションに集約されるあたりは見事なもの。モロッコで撮影されたカーアクションは完全にハリウッド規模で、しかも、その見せ方が非常に上手い。書記官のドジで集中砲火を浴びる場面なども、見事な伏線。

キャメラが外から車内に入って、また出ていってというワンカット風のVFX演出もあるけど、非常に効果的に設計されていて、こうした映像効果はえてしてギミックが浮きがちなんだけど、劇的に見事に昇華されていて、ちゃんとサスペンスを生んでいる。この手法を使いこなしたのは、スピルバーグくらいだと思うけどね。

■それに、大使館のこどもたちが惨劇を目撃する視線や、その目を大人が塞ぐラストの描写が効果的にさらっと挿入されているあたりもリュ・スンワンの筋の良さで、これみよがしなことは実はあまりしていないけど、さりげなく的確な映像表現を配置して、静かに感動的。リュ・スンワンは子どもの点描がうまくて、そこにはこだわりがあると感じる。『生き残るための3つの取引』なんてさらっとえげつないものを見せるから狡い。

■しかも本作、韓国では4DX上映されていて、社会派映画どころかアトラクション映画として流通しているのだ。ケニア脱出後の彼らの処遇についても、実に見事な作劇的なさばき方で、淡々とした演出も静かな感動を呼ぶ。派手な音楽も、場違いな主題歌も、お涙頂戴も一切無しで、南北の分断を左右対象のショットの切り返しでシンプルに示しながら終わる。そこに深い哀しみが去来する。こんな映画見せられると、日本映画は当分韓国映画には勝てそうにないと感じるよね。かわぐちかいじの漫画ばかり映画化している場合じゃないよ。企画の貧困!


参考

このインタビュー記事は有意義ですね。
eiga.com
maricozy.hatenablog.jp
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